新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(Access and Delivery Partnership:ADP)
UNDP が主導する「新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(Access and Delivery Partnership:ADP)」イニシアチブは、日本政府の支援を受け、結核(TB)やマラリア、顧みられない熱帯病(NTDs)という、貧困層が不当に影響を受けている病気から命を守る医療技術(ワクチン、医薬品、診断ツール)に対する公平なアクセスの拡大を目指し、低・中所得国に政策やシステム、能力の強化の支援を提供しています。
ADP のコアパートナーであるUNDP、世界保健機関(WHO)、熱帯病医学特別研究訓練プログラム(TDR)およびNGO のPATH は、それぞれの専門能力を持ち寄り、国、地域や世界の関係者と連携しながら、独自の協力を展開しています。
「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」は、結核やマラリア、NTDs が人間開発に影響を及ぼすことを認め、その認識に立ちながら、開発優先課題として、2030 年までにこれら疾病の蔓延に終止符を打つことを求めています。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)が起きる以前から、世界が保健関連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成できる目途は立っていませんでした。COVID-19のパンデミックは、医療システムの重大な脆さと弱さを露呈し、人々の健康や開発、人間の安全保障へ深刻な影響を与えました。各国政府が一斉に国民に新型コロナ・ワクチンや診断ツールを早急に届けられるよう取り組んだことにより、グローバルヘルスにおいて、必須医薬品やワクチン、診断薬・機器への公平なアクセスを確保することの重要性が浮き彫りになりました。
各国においてCOVID-19への対応が以前に比べ落ち着きを見せつつある中、結核やマラリア、NTDsなどの貧困の病は依然として、甚大な人的、社会的、経済的負担を課しています。特に多くの低・中所得国では、ただでさえ手一杯の医療システムが、コロナ禍により必須の保健サービスに使うための資金を流用せざるをえなくなり、貧困層や弱者層が不当に大きな影響を受けています。各国は、コロナ禍に終止符を打つだけでなく、これまでの結核、マラリアおよびNTDs対策の成果の後退を食い止め、これら疫病の撲滅へ向けた目標を新たにするとともに、将来起こりうるパンデミックを含む公衆衛生危機に対する予防・備え・対応(Prevention, Preparedness and Response:PPR)を整えるための措置を講じることが急務です。
UNDPの「戦略計画 2022-2025」と「HIV保健戦略2022-2025」はともに、各国の制度的能力と責任あるマルチセクター・ガバナンスの強化に投資すると同時に、普遍性や公平性、そして誰一人取り残さないという原則にコミットしていくことの必要性を認識しています。こうすることによって初めて、将来のパンデミックに打ち勝つ強靭な医療システムを構築し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を広め、 複雑に絡み合う課題や危機を抱えますます脆弱性が高まる世界で、人間の安全保障を守ることができると考えるからです。
ADPは、幅広い部門や専門分野にまたがる活動を通じ、各国の医療システムの強靭性を高め、新規医療技術(ワクチン、医薬品、診断ツール)の効果的な提供に向けた準備態勢を強化するために不可欠な政策、人的能力、制度および規制の開発を支援しています。
ADPは、各国のコロナ対策の支援を行う一方で、結核、マラリアおよびNTDsを対象とする各国の疾病対策プログラムの能力構築を続けてきました。また、医療サービスの提供モデルを改善し、医療部門におけるデジタルヘルス・ソリューションの利用促進にも一層力を入れています。政策、プログラム、および医療技術の展開にかかる様々な課題についての経験の共有を進めるため、低・中所得国間の南南交流と協力の促進も図っています。
ADPは2013年の発足以来、以下の3つの相互に連関する実施戦略を指針として活動してきました。
- 質の高い医療技術の選別と優先づけ、普及を可能にする政策や規制の調和、ならびに統合された計画設計の強化
- 新規医療技術の効果的な導入と展開を加速し、公衆衛生危機に対する備えを改善するために、各国の医療システムの技術的・制度的能力の強化
- ADPの国レベルでの実践経験を活用し、医療技術のイノベーション、アクセスと提供のバリューチェーン全体についての南南間の知識交換と協力を促進することにより、医療技術の提供に向けた準備態勢を整備する地域的およびグローバルなプラットフォームの確立に貢献
4 つのADP パートナーはそれぞれ、独自の専門能力を持ち寄り、革新的かつ統合的な方法で低・中所得国における能力のギャップを特定し強化を支援しています。
- UNDP は、170 か国の様々な専門家や連携機関からなる幅広いネットワークを通じ、貧困や格差、気候変動といっ た不公正に終止符を打つために闘う国連の主要機関です。ADP の主導機関として、UNDP はこのパートナーシッ プを管理、調整しています。またADP の重点国に対し、国の政策、法制度やガバナンスの枠組みの策定および導入、 医療システムのデジタル・トランスフォーメーションに関わる支援を提供しています。UNDP はまた、政府機関 を横断するマルチセクター型フォーラムの設立を援助し、ADP の南南学習・協力戦略を主導しています。
- WHO は、国連システム内で国際保健に関する指導と調整を行う権限を与えられており、194 の加盟国と連携しな がら、誰でもどこでも、より良い医療を受けられるようにするというコミットメントのもと活動しています。 WHO は、ADP 重点国の規制当局のベンチマーキングを支援するとともに、能力のギャップに取り組み、様々な 機関の連携を重視したアプローチを促進することにより、各国での規制の調和を促進しています。ADP を通じ WHO は、医療技術の市場監視と品質のモニタリングに関するプロセスの強化も支援しています。
- TDR は、国連児童基金(UNICEF)、UNDP、世界銀行およびWHO が共同スポンサーをつとめる、貧困の病と闘 うための取り組みを促進および支援する科学的協力に基づいたグローバル・プログラムです。ADP を通じTDR は、 新規医療技術の安全性監視能力と、これに関連するサーベイランス、報告およびデータ管理の能力の強化を含め、 医薬品安全性監視システムに関わる支援に重点をおいて活動しています。TDR はまた、各国の研究機関や疾病管 理プログラム、医療研究者が新規医療技術の効果的な導入と活用に向け、実装研究を体系的に応用できるよう支 援しています。
- PATH は、特に女性と子どもの命を救い、健康を増進するための革新的なイノベーションを推進する国際NGO で す。ADP の重点国と連携しつつ、PATH は低・中所得国が新規医療技術導入の影響を評価できるよう、エビデン スに基づく持続可能な資源配分プロセスを支援しています。重点的な技術支援分野としては、十分な情報に基づ いた医療政策に関する意思決定を促す手段としての優先課題設定戦略の制度化や、「価値に基づく」計画、調達お よびサプライチェーン管理に対する戦略的アプローチが含まれます。
ADPは9つの重点国と、南南学習と協力を通じ60か国以上を支援しています。