2030年を視野に、国際的な防災投資の増額を

岡井朝子 | 国連事務次長補、UNDP総裁補兼危機局長

2021年10月13日

 

Photo: UNDP Papua New Guinea / Kim Allen

 

2021年の上半期のみで、自然災害による被保険損失は420億ドルにも達しました。災害はいつ、どの国で起きるか分かりません。災害とは無縁のコミュニティはないのです。

しかし、世界全体を見ると、災害で最も大きな被害を受けているのは、すでに危機下で暮らしている人々です。1970年から2019年の間、気象・気候関連の災害により命を落とした人の91%は低・中所得国で暮らしていました。貧困は災害の原因であると同時に、その結果でもあり、苦心して達成した開発をリスクにさらすだけでなく、経済成長に向けた前進を後戻りさせてしまいます。

きょうは国際防災の日です。私たちはこの日にあたり、災害リスクが自然現象ではなく、人が作り出すものであることを思い返します。私たちは今年、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行という、低所得国で暮らす人々に不当に大きな危害を及ぼしている災禍と闘う中で、国際防災の日を迎えました。コロナ禍は、以前に加えて新たに8,800万人から1億1,500万人を極度の貧困に追いやった可能性があります。

同時に、気候変動は、2030年までに貧困解消を目指す国際的な取り組みを頓挫させるおそれがあります。同年までに、最も災害頻度の高い49か国では、最大で3億2,500万人が貧困に陥ると予測されています。各国は今すぐに対策を取る必要があります、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を望むのであれば、国際的な防災への投資を増やす必要があります。

しかし、きょうは単に、私たちの地球が直面している課題を思い出すだけの日ではありません。それはまた、これまでの前進を認める機会でもあります。「仙台防災枠組」が設定した7つの目標の一つには「開発途上国がその災害リスクと災害損失を削減できるようにするための国際協力」強化が盛り込まれています。私は世界で多くの国で、その模範が示されていることを嬉しく思います。

例えば昨年、UNDPは国連防災機関(UNDRR)との間で、仙台防災枠組2015-2030と国連防災行動計画の実施を加速するため、3つの優先分野で協力する協定に署名しました。

UNDPは、コミュニティや各国が災害に対するレジリエンス(強靭性)を高められるようエンパワーメントを図ることにより、開発の成果を守ることを目標としています。UNDPはネパールで、気候変動の脅威から生活を守ろうとしている政府を支援しています。パキスタンでは、リスクを抱えたコミュニティのレジリエンスを強化する政府の能力を強化しています。タイでは、水資源の管理によって気候変動に備えようとする政府を支援しています。ウズベキスタンでは、自然災害早期警報システムの開発に貢献しています。そしてリベリアの首都モンロビアでは、政府による都市部での防災への取り組みを支援しています。

日本は防災の分野において、UNDPにとって最も重要なパートナーの一つです。多くの災害に直面してきた日本は、その必要性から、防災に精通しているからです。

例えば、私たちは日本政府との連携により、インドネシアやネパール、フィリピン、スリランカで、デジタル技術を用いて災害に対するレジリエンス強化を図るDX4Resilienceというプログラムを実施しています。この取り組みは、日本の民間セクターを含む企業やコミュニティも巻き込んだ大きな前進として期待できるだけでなく、私たちがイノベーションや実験、デジタル化を活用して将来の問題解決を図れることを示す重要な事例でもあります。

日本が支援するもう一つのプロジェクトとして、アジア太平洋全域の学校に対する津波対策支援が挙げられます。これまでに6万1,000人を超える教員が津波避難訓練の研修を受けました。災害リスクの高まりと将来の開発に対する脅威というジレンマを解決できるのは、このような国際協力だと言えます。

 

サモアで実施された津波避難訓練の様子

 

こうしたプロジェクトにはいずれも、システミック・リスク(連鎖的に存在する多様なリスク)への取り組みを図るという共通点があります。これはコロナ禍で明らかになった重大な課題でもあります。私たちはシステム間の相互のつながりや、災害や気候以外の多次元的リスク、そして貧困や格差等、脆弱なガバナンスに関連するリスクの根底にある諸要因に配慮せねばならないからです。私たちのあらゆる行動の中心に防災を据えなければなりません。防災は命を守るだけでなく、暮らしも守ることにも重点を置いた貧困削減への取り組みの主要素とすべきです。

私たちだけでレジリエンスを構築することはできません。パートナーと協力しながら「総力戦」のアプローチを採用する必要があります。2030年というSDGsの達成期限が視野に入りつつある中で、一つ確かなことがあります。それは、災害が多くの開発ターゲット達成にとって、確かに存在する脅威になっているということです。コロナ禍というショックにより、今年はSDGs達成の成否を分ける分岐点となるでしょう。最近になってある程度の進展は見られるものの、気候変動対策と防災に関する実質的な国際行動とコミットメントがなければ、今後10年間で貧困と飢餓を撲滅できる可能性は低いからです。