アフリカの希望と日本の貢献:小松原茂樹タンザニア常駐代表が語るアフリカ開発の未来

UNDP日本人職員インタビュー:小松原茂樹 UNDPタンザニア常駐代表

2024年12月3日
a group of people sitting at a table using a laptop

「ブルーエコノミー - Bahari Maisha プロジェクト」のもと実施されるタンガ州バガモヨ、ウングジャ島、ペンバ島における女性および若者を対象とした海藻設備および用具の寄贈式にて

Photo: UNDP Tanzania

UNDPガーナ常駐副代表、UNDP TICADプログラムアドバイザー、UNDPマラウイ常駐代表を経て、現在はタンザニアでUNDP常駐代表を務める小松原茂樹さん。タンザニアのこれから、来年横浜で開催されるTICAD9への期待、国際開発の最前線で活躍し続けている小松原さんのアフリカとその未来への想いに迫りました。


小松原さんが常駐代表を勤めているタンザニアは高い経済成長率と安定した国内情勢から、新たな投資フロンティアとして注目されています。小松原さん自身もタンザニアに対する投資促進に携わっていらっしゃるかと思いますが、活動をする中で感じた可能性、課題はありますか?

タンザニアは今大きく成長している国なので、仕事をしていて非常に楽しく、やりがいも感じています。タンザニア経済は順調に伸びていて、2020年から2030年にかけて経済規模がほぼ2倍になり、人口もあと15年ほどで1億人になる見通しです。国連等の基準で言うと低中所得国という部類に入ってきており、今後ケニアを抜いてタンザニアが東アフリカ最大の経済圏になると考えられています。こうした状況を、「タンザニア」、「アフリカの中のタンザニア」、「グローバルサウスの中のタンザニア」という異なるレンズで見た場合に、様々なポテンシャルが見えてきます。

複眼的にタンザニアを見る 

まずタンザニア自体というレンズで言えば、人口1億人の中所得国として、これからマーケットとして育っていくと思います。次にアフリカの中のタンザニア、地域的なつながりで言うと、東アフリカ共同体(EAC)、南部アフリカ開発共同体(SADC)両方のメンバーになっています。2022年からはコンゴ民主共和国が加わりましたが、それ以前は両方のメンバーになっている唯一の国でした。こうした意味で、タンザニアは東アフリカにも南部アフリカにもアクセスできる地理的な条件が整っています。東アフリカ全体がアフリカの中でも一番経済成長率の高い地域になっていますが、その一つの要因はインド洋をめぐるヒト・モノ・カネのつながりです。アジアからの投資が増えていますので、グローバルサウスの中で見た経済的なつながりという面でも、タンザニアの経済成長というのはこれから非常に重要なエンジンになっていくと思っています。

水産教育訓練庁(FETA)のミキンダニキャンパスを訪問、スマート養殖を見学

Photo: UNDP Tanzania
UNDPの取り組み

こうした国ではUNDPとしても先を見た投資、政策づくり、キャパシティ・ディベロップメント等々ができますので、世界各地でUNDPがやっている仕事の中では非常に建設的で先を見た仕事をさせていただいています。ただ、タンザニアがこれから中所得国になっていくということは、今までとは違った課題が出てくるということでもあります。チャンスもたくさん出てくるのですが、やはり人材、スキル、政策等は低開発国を前提としたものから、中所得国を念頭に置いたものに変わっていく必要があります。そしてその変わっていく過程というのは往々にして失敗があったり、今までなかったような問題が浮上したりする。なので我々としては応援する、ということも大事ですが、やはりタンザニアの関係者と一緒に将来を考えながら、今やらなければいけない投資とは何か、を考えていくというのがUNDPの立ち位置であり、仕事なのかなと思っています。

このような問題意識から、UNDPは経済発展の土台となるガバナンス(司法、立法、行政等)の制度、諸機関の整備や能力強化に加えて、タンザニアの将来への投資として、長期経済計画づくりへの支援、イノベーション促進、起業家支援、スタートアップや中小企業へ資金を供給する仕組みや環境づくり、さまざまなリスクを担保するために必要な保険業を担う人材の育成、豊かな自然と海洋環境を保護しつつ地方からの経済発展を実現するグリーンエコノミー、ブルーエコノミーの創出、将来を担う青年・女性への支援など、幅広い活動を政府、民間、学会関係者、日本をはじめとする援助国関係者、他の国際機関などと協力しながら展開しています。

ブルーエコノミープロジェクトで寄贈される海藻の乾燥設備を見学

Photo: UNDP Tanzania

日本政府が主導するアフリカ開発会議(TICAD)は2023年に30周年を迎え、来年2025年には横浜でTICAD9が開催されます。TICADの共催機関であるUNDPの窓口として小松原さんは長年TICADを支えていましたが、次回のTICADにはどのような期待をしていますか。

まずは、TICADのこれまでの歩みを振り返って申し上げますと、TICADの一つ目の特徴は、アフリカ開発の論調を先取りし、常に時代の半歩先の議論を展開してきたフォーラムだということです。二つ目の特徴は、TICADは世界に開かれたフォーラムでもあるというところです。日本政府が音頭をとり、国連などと協力してきたわけですが、ここまで世界中に開かれたフォーラムというのはアフリカに関してはこの他に見当たりません。そういう意味で、TICADはアフリカにとってもアフリカの課題や可能性を世界中の関係者と共有できるという素晴らしい役割を果たしてきたフォーラムだと思います。三つ目は、TICADは国連の中においても、MDGsやSDGsといったグローバルな開発の枠組みを作る際にとても重要な貢献をしてきたという点です。TICADの過去の提言にはMDGsやSDGsにほぼそのまま入っているようなものがたくさんあります。これはアフリカの声を世界中に広げ、国連にまで伝えるという意味でも大変有効でした。

UNDP並びに国連はTICADがアフリカ開発並びにグローバルな開発の議論および実施に果たしてきた役割を非常に高く評価しており、日本政府がTICADを発案し、国連と共催でやろうと提案していただいたことに非常に感謝しています。TICADは当初は紛争、平和と安定、地域協力、その次は経済開発、プライベートセクターとの協力、デジタルイノベーションの推進と、時代に応じてテーマを広げてきました。来年横浜で開催されるTICAD9は、国際情勢がこれまでになく不安定化している中で、将来に向けたアフリカの可能性と、南南協力や三角協力を含めたマルチな協力の大切さを具体的な例を通して強調できる非常に重要な機会になると思います。

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)にて

Photo: UNDP Tokyo

アフリカは、紛争や貧困といった問題ばかりがあるわけではありません。むしろ、経済的に発展し、イノベーションが進み、金融資産がたまり始め、1/3が中所得国で、マーケットとしてどんどん成長している大陸でもあります。ですから、改めてアフリカを世界レベルで見ても最も成長を続けている地域の一つとして、どうすればより良い成長を続けられるのか、どのようにして協力関係を築けるのかを議論し、より具体的な協力を探る良い機会になることを期待しています。 

国際情勢が不透明さを増すなか、アフリカでも依然として情勢が不安定な国や地域は少なくありませんが、タンザニアのように着実に経済成長している国も少なくありません。経済・社会・政治の安定のためには何が必要かを今一度見つめ直す一方で、マクロ経済、ビジネス、イノベーション、デジタル、起業家、文化、女性、青年、ブルーエコノミー、グリーン成長、あるいは新たな南南協力といった、アフリカの将来のための「投資」をさまざまな関係者と連携していかに推進できるか、世界中からアフリカを応援する関係者が集まるプラットフォームだからこその貢献をTICADに期待しています。

アフリカはマーケットとしてどんどん成長しているというお話がありましたが、まだまだアフリカへの進出にハードルを感じている日本企業もあると思います。企業や経済界にとっても、アフリカは地理的にも心理的にもまだ遠い存在なのでしょうか?

私はTICAD5、6、7でUNDP側の窓口として日本の経済界におけるマーケットとしてのアフリカへの関心の高まりを肌で感じていたのですが、不幸なことにコロナにより日本企業がアフリカから引いてしまった時期がありました。コロナが終息の兆しを見せると、日本以外のビジネスはアフリカに直ちに戻ってきたのですが、それに比べると、日本のビジネス関係者の戻ってくるペースやコロナ後の対アフリカビジネスの立ち上がりは少し遅れていたのではないかとは思います。 ただ最近は、日本企業の間でグローバル戦略の一環としてアフリカ市場により体系的に取り組む必要性を感じる関係者も増え、今関与しなければ将来的に市場での立場を失うかもしれないという危機感も広がっているように思います。

日本からアフリカに向かう道は一つではない

また、日本からアフリカに直接ではなく、アジアを経由してアフリカに進出するというアプローチも増えています。例えば日本企業はアジア、特にインドに積極的に進出していますが、アジアで行っているオペレーションを助けるためにアジア経由でアフリカに進出できないか、インド企業のネットワークを使ってアフリカに出られないか、そういう戦略が展開されつつあります。タンザニアへの直接投資ではアジアの国がトップの多くを占めていますが、それを考えれば、日本企業がアジア経由でタンザニアに進出しようと思われるのもある意味当然ですし、日本がアジアで育んだ経験、人材、パートナーと一緒にアフリカに進出するという例も増えてきています。そういう意味では、日本企業にとってのアフリカへの目線は「日本からアフリカ」の一つだけではなくて、「日本からインド、インドからアフリカ」など、いくつかの目線で複眼的にマーケットとしてのアフリカを見ることができるようになってきているのではないか、と思います。全体としてみれば日本にとってのアフリカ、経済界にとってのアフリカはより近くなりつつあるのかなという気がしています。

今、世界、そして日本がアフリカに持つイメージは「紛争や貧困」といったものから「可能性を秘めたフロンティア」というようなものまで多岐に渡り、こうした決まった見方に対する批判もあります。小松原さん自身は現在どのようにアフリカを捉えていらっしゃいますか。

課題はたくさんあります。ですが、課題というのはある意味チャンスでもあります。「課題や問題を指摘され、それに反応する」というのではなく、「経済や社会を発展させていく中で当然ながら貧困もなくす」「社会が発展する中で色々な課題も解決していく」「前向きな循環を作っていく」という考え方が開発には重要です。往々にして援助と言うのは既に問題があるから対策するという考え方が中心で、それは大事ではあります。例えば難民について言うならば、今目の前の人を助けないと未来はないわけです。いわゆる人道援助は目の前の課題、問題に対してとにかくそれをなんとかする、最悪の事態にならないようにするということに重点が置かれます。ですが、私は将来に対する目線を忘れないのも大事だと思います。

国連の中でも、目の前の困難に取り組む同僚がいる一方で、気づかれていない才能や機会をどう繋げていけばより良い社会を作れるのか、将来に向けた「希望」と「可能性」をどうすれば具体的に示せるのか、先を見た議論を率先することも大事です。アフリカを考える時に、将来に役立つ財産、明確に認識されていない強み、才能、人材、ネットワークなど、アフリカが持つものを理解し、評価する。彼らがそれらをどのようにしてより良く使えるかを、一緒になって考える。特にこれはタンザニアにいると大切なアプローチのような気がしています。

タンザニアの自然保護と観光促進に貢献してきたルアハ国立公園開園60周年を祝ってバルーンサファリ

Photo: UNDP Tanzania
“Hope and Possibilities”

あと、アフリカはお金がないというイメージがありますけれど、実はお金がないわけではありません。例えば、政府にお金がない場合はあるかもしれませんが、民間セクターは育っていることがあります。アフリカの大きな銀行トップ10といった時に、以前は外資系の銀行が多かった記憶がありますが、今はほとんどアフリカ資本の銀行です。また、イリシットファイナンシャルフローという、様々な理由でアフリカ大陸から捕捉されずに出て行ってしまうお金に関する統計があるのですが、 2022年にUNCTADは、アフリカ全体に対するODAの年間総額が480億ドルであるのに対し、捕捉されずに失われるお金の総額は886億ドルにのぼると分析しています。

アフリカの友人に言ってみたことがあります。

「ちょっと自分の家だと思ってみてよ。どこかから800億ドル漏れてるから500億ドルもらわないといけないっておかしくない? 漏れを止めたら借金しないでいいんだよ。実は君はもうお金持ちなのでは?」

現実を見れば、アフリカにはお金がないなんてことはないのです。ただそのお金をどう管理するかは考えなければいけない。漏れも止めなければいけないし、貯めたお金をどう使うかも考えなければいけない。こういった意味でのサポートは必要になるわけです。

こうしてアフリカの現実を見ていくと、現場からは、今まで持たれていた貧困や紛争といったアフリカのイメージとは違う様子が見えてきます。なので、従来の「常識」や先入観に囚われないでほしいとは、現場にいるとやはり思います。「アフリカは貧しい」と思っていると、貧しい側面しか見えなくなりがちです。確かに、西アフリカや中部アフリカのようにまだ経済社会の基礎がしっかりしていないところもありますが、じゃあそういうところに希望がないのかというと、決してそういうことではないのです。英語では“Hope and Possibilities”と言いますが、サヘル地域や大湖地域のような難しい場所であってもいかに希望を失わないでいてもらえるか、いかに可能性を追求するかが、UNDPの仕事なのだと思います。「厳しい環境でも絶望しないでください」なぜなら、「皆さんにはこんなことができるじゃないですか」という例を一つでも多く具体的に示すことがUNDPにできる大きな貢献の一つだと思います。

小松原茂樹(左)と聞き手(UNDP駐日代表事務所インターン宍戸)