国連開発計画(UNDP)と東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)は、"デジタル化とテクノロジーによる経済変革 "をテーマとした円卓会議を東京大学にて共催しました。
"アフリカの経済変革を解き放つ:デジタル化とテクノロジーの洞察と課題
2023年8月31日
2023年7月20日 於東京 ― 国連開発計画(UNDP)と東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)は、「デジタル化とテクノロジーによる経済変革」をテーマとした円卓会議を、東京大学にて共催しました。
日本のアフリカ開発戦略の根幹を担うアフリカ開発会議(TICAD)に関して、UNDPは長年共催者として、日本の外務省やその他の主要パートナーとの協力のもと、日本のアフリカ開発戦略の形成に大きな役割を果たしてきました。2025年に日本で開催されるTICAD9を見据え、本取組みは2018年に締結された東京大学とUNDPの間における包括連携協に基づき、開催されました。
本会議では、TICADへの知的貢献を行ってきている、UNDPアフリカ地域局戦略・分析・調査チーム長兼チーフエコノミストのレイモンド・ギルピンが、日本におけるアフリカ関係有識者と議論を展開しました。ディスカッションでは、アフリカ全体の経済変革の触媒として、デジタル化と技術統合が果たす潜在的役割と想定される役割について掘り下げられました。
ギルピンは、デジタル技術がアフリカで果たしうる役割の可能性の探求から議論を始め、過去のモデルの欠点に鑑み、経済開発モデルの形成における抜本的な変革の必要性を強調しました。
また、デジタル技術を効果的に活用した新たな開発戦略を策定するためのガイドラインとして、UNDPの「デジタル戦略2022-2025」を取り上げました。また、テクノロジーは効率性を高め、情報格差を緩和し、グローバル市場へのアクセスを拡大し、アフリカ経済をより包括的で強靭なものにできると主張しました。
同氏は講演の最後に、多額のコスト、電子行政の信頼性に対する不安、ジェンダーの不平等といった重大な障害が、誰もが包括的に恩恵を受けるテクノロジー導入の実現に大きな障害となっていることを論じ、さらに、こうした要因を踏まえて、デジタル経済変革が行われる背景を慎重に検討する必要性を強調しました。
東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)准教授のアレクサンドロス・ガスパラトス氏は、ギルピンのプレゼンテーションに対し、特に農業分野における生産性と効率性を高めるデジタル技術の可能性について詳しく説明しました。また、特に小規模農家や消費者の間ですでに進んでいるテクノロジーの効果的な活用が、市場の拡大を可能にしていることを強調しました。このような前向きな見方にもかかわらず、ガスパラトス氏は、デジタル技術が既存の不平等を悪化させないようにすることの重要性を強調し、円卓会議に注意を促しました。
ガスパラトス氏に続き、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の鈴木綾氏は、現在スタートアップが重視され、急速に成長していることは注目に値するが、スタートアップがすべてを解決できると期待すべきではないと言及し、デジタル統合を促進する環境づくりの中心的役割を担っている、既存の大規模な伝統的インフラが影を潜めてしまうことがあってはならないと主張しました。鈴木氏はまた、デジタル技術が提供する情報に対するアフリカ市民の信頼の問題にも言及し、デジタル技術は従来のインフラに取って代わることはできないが、補助的なツールとしての役割は果たせると提案しました。
他の専門家も、基本的なインフラの重要性を強調しました。名古屋大学大学院国際開発研究科准教授のクリスチャン・オチア氏は、モバイルマネーがもたらす利点として、都市部から地方への移住を促進することによる投資機会の増加などを強調しました。その一方で、基本的なインフラの必要性を強調し、コンゴ民主共和国における重要な課題として、インフラの欠如を強調しました。鈴木氏と同様、オチア氏も、基礎インフラの整備はデジタル技術の進歩にとって極めて重要であると結論づけました。
政策研究大学院大学(GRIPS)教授・国際協力機構(JICA)緒方貞子平和開発研究所シニアリサーチアドバイザーの大野泉氏は、デジタル技術と従来のインフラが果たすべき補完的役割について、オチア氏の考えに同意しました。また、アフリカにおける経済変革は期待を裏切るものであったと指摘し、投資及び低生産性労働から高生産性労働への労働力のシフトを促進するため、焦点を絞った産業化戦略の必要性を強調しました。そして、デジタル技術を持続可能な形で導入するためには、状況に応じた解決策が重要であると締めくくりました。
続いて、株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング シニアコンサルタントの田島健二氏がスーダンのダルフールでの経験を紹介し、平和構築の話題に移りました。田島氏は、AIやソーシャルメディアといったデジタル技術が、市民と政府とのコミュニケーション・手段として機能する可能性を強調しました。さらに、テクノロジーは、グローバルに使用されている言語と、各国で一般的に話されている現地語との間の言語ギャップを埋めることができると示唆しました。
東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)センター長・教授の福士謙介氏は、アフリカの若い世代のポテンシャルについて言及しました。多くのアフリカの若者が知識面で豊かであり、それを分かち合うことに熱心であると述べました。このことは、このような意欲とデジタル技術が相乗効果を発揮する可能性を示しており、その結果、様々な分野での知識交換を強化することができることに言及しました。
上智大学アジア文化研究所研究員で日本アフラシア学会(JSAS)副会長のキニュア・ラバン・キティンジ氏も、オチア氏と同様にモバイルマネーについて言及しました。特に、ケニアで利用されているモバイル送金システムM-PESAについて触れ、「翻訳されたインターネット」という表現を用い、この技術を日常生活に適応させることで、より多くの人々が利用できるツールになる可能性を強調しました。
M-PESAについては、アフリカ開発銀行 (AfDB) アジア代表事務所次席 木下 直茂氏も言及しました。木下氏は、チュニジア国民による反乱の際の効果的なソーシャルメディア活用の経験を紹介しながら、デジタル・プラットフォームの可能性について語った。木下氏また、M-PESAのモバイルマネーサービスとしての可能性を「脅威的」であるとし、農業、漁業、送電網の接続が制限されている地域におけるオフグリッドソリューションなどの分野における社会的問題に対処するために、他にも数多くのデジタルサービスが多様に応用されていることを強調しました。
独立行政法人日本貿易振興機構 アジア経済研究所 開発研究センター主任調査研究員でIDEAS教授の福西隆弘氏は、アフリカでの長年の豊富な経験から得た洞察を共有し、デジタル技術がインフォーマル・セクターにもたらす潜在的な変化に注目する必要性を強調しました。福西氏は、デジタル化がインフォーマル・セクターにもたらす可能性のある影響については、さらなる調査が必要である一方、オンライン・ショッピングのようなテクノロジーは、すでに人々の生活を確実に変えていると述べました。
金沢工業大学情報フロンティア学部准教授・一般社団法人 ICT for Development 代表理事の狩野剛氏は、アグリテックの未開拓の気候変動ポテンシャル、衛星、AI、グリッド技術を活用した農業におけるデジタル化のブレークスルー、AIを活用したコスト削減や カーボンクレジットによる収入などを取り上げました。また、サハラ以南のアフリカでは、100人あたり80以上のモバイル契約、2倍のインターネットユーザー、2025年までに75%のスマートフォン普及が予測されるなど、進展が見られる一方、GDPに対するインターネット料金の高さと5Gの普及の遅れが課題となっていることを指摘しました。狩野氏はまた、ブロックチェーンのガバナンスの可能性についても議論し、その透明性と不変性に言及しながらも、エラーが絶えず蔓延する可能性があるため、成功のためには正確なデータ入力が必要であると強調しました。
狩野氏のブロックチェーンに関する発言を受け、モデレーターを務めた東京大学未来ビジョン研究センター SDGs協創研究ユニット 特任講師の華井和代氏は、日本企業はサプライチェーンにおける鉱物の流通追跡においてブロックチェーン技術に確固たる信頼を寄せているが、この信頼とアフリカの鉱物産出地域における鉱物認証システムの実際のパフォーマンスや信頼性との間には顕著なギャップがあると指摘しました。
今回の議論を通じ、アフリカにおけるデジタル技術が持つ大きな可能性について取り上げられながらも、これまでの実績と将来への懸念の両方が提起されました。会議のクロージングにて、UNDP駐日代表のハジアリッチ秀子は、専門家たちによる多様な経験と鮮明なアイデアの共有に感謝の意を示しました。そして、UNDPはアフリカで「包括的で倫理的、持続可能なデジタル社会」の実現に全力を注ぎ、東京大学などの学術機関との強力な連携を維持することで、アフリカ経済のデジタル化が、活気に満ちた大陸への一層の発展に寄与することを強調しました。