将来のパンデミックを防ぐために必要なグローバル・パートナーシップ

日本政府の支援により、新しい医療技術の開発が進む

2022年10月14日
Photo: UNDP Mauritius

マンディープ・ダリワル 国連開発計画(UNDP)HIV・保健開発グループ・ディレクター
國井修 公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund) CEO


新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)が、まだ終焉からほど遠い状況にある中で、すでに私たちは終わりの見えない新たなパンデミックに直面しています。

以前より専門家はサル痘がグローバルヘルス上の脅威となりかねないと警告していましたが、世界は現在の規模でのサル痘発生に備えていませんでした。世界中で感染者が出ており、感染症に国境はないことが改めて実証されました。

現状のシステムが私たちに健康の安全を保障していないことは明らかですが、私たちは新たな健康への脅威から人類を守るために必要な協調的対策をまだ講じていません。また、最も弱い立場にいる人々を置き去りにしています。新たなアプローチが必要です。

国際社会は一致団結し、より統合的でパートナーシップ主導によるグローバルヘルスの枠組みを築かねばなりません。先月、チュニジアで開催されたアフリカ開発会議の閉会宣言は、アフリカにおける保健システムのギャップに対処し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成するための将来を見据えた戦略とパートナーシップの必要性を指摘しています。

グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)や国連開発計画(UNDP)が主導する「新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP)」など日本政府が支援する革新的な国際パートナーシップは、資金不足を補い、実施可能なイノベーションを提供しています。

これらの取り組みには共通の目標があり、それは日本の新たなグローバルヘルス戦略にも大きく反映されています。すなわち、健康安全保障を守るための国際協力と協調を構築し、パンデミックを含む公衆衛生危機に対する予防、準備および対応を強化することです。

こうしたモデルは、概念を実証し、明確で再現可能な道筋を示しています。

GHIT Fundは、、必要でありながら、資金や研究が不十分な医療技術に投資することを使命とし、満たされていないニーズへの対応を目的として設立されました。GHIT Fundはその発足から10年間で、100件を超える製品開発プロジェクトに投資し、そのうち56件は現在も進行中です。

最も進んでいるプロジェクトは、サハラ以南のアフリカで蔓延している住血吸虫症という熱帯病にかかった未就学児向けの治療薬として期待されているプラジカンテル小児用製剤です。最近、臨床開発段階を完了し、極めて重要な第3相試験で有効性を示す結果が得られたため、現在は2024年の導入を目標に、欧州医薬品庁への承認申請準備が行われているところです。

しかし、どんな医薬品やイノベーションも、それを必要とする人々に届いて初めて効果を発揮します。そこでADPは、プラジカンテル小児用製剤の承認に先立ち、2019年の時点で5万3,316人の5歳未満児が住血吸虫症に感染しているタンザニアで、国立医学研究所を支援し、現行の駆虫プログラムに住血吸虫症を組み込むよう提言するなど、新薬導入における課題への対処とその克服に向けた国家機関全体での取り組みを調整する支援を展開しています。

医療イノベーションの開発を社会的弱者層が抱えるアクセスの課題を克服できる公平な実施計画とともに設計するこのようなエンド・ツー・エンドのアプローチは、健康安全保障の大きな柱となるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に欠かせません。

COVID-19のパンデミックは、イノベーションと事業の実施を並行して行い、持続可能で回復力のある医療システムに投資することの重要性についても貴重な教訓を提供しています。コロナ禍はオンラインでの診療記録や遠隔医療などのデジタルヘルス・ツールの開発に拍車をかけました。そのような状況下、ADPの専門能力によって社会的弱者層のニーズが配慮され、またデジタル・ツールが公平に展開され、大きな効果を上げました。

ADPの支援を受けてインドネシア保健省が採用したデジタル・プラットフォームのSMILEは、ワクチンの在庫状況と保管温度の遠隔監視を可能にしました。現在は全国1万か所の医療施設に利用が拡大されています。

UNDPはインドとブータンでも同様に、新型コロナ・ワクチンの普及を拡大するためのデジタル・システムの導入を支援し、最終的には10億人以上のワクチン接種完了に貢献しました。

医療技術のイノベーション、活用や保健システムに対するこうした投資の恩恵は、COVID-19の枠をはるかに超えて幅広い範囲に及んでいます。ベナンやブルキナファソ、セネガルでは、ADPの支援を受けたパートナーが、患者の健康状態を遠隔監視するデジタル・ツールの利用を検討しており、混乱の中でもケアの継続性を確保することを支援しています。

サル痘の拡大が痛切に物語っているように、将来の危機は既にここにあります。低中所得国に暮らす人々のニーズを無視すれば、さらに多くの場所で、さらに多くの人々を危険にさらすことになるだけです。人間の安全保障というアプローチは、断片的な取り組みでは、新たな健康の脅威を緩和し、対応することができないという認識に基づいています。むしろグローバルな連帯とパートナーシップこそが必要なのです。

GHIT FundとUNDPは、新規医療技術のイノベーション、アクセスおよび提供のプロセスに関わる主要なステークホルダーと、より強力で新しいパートナーシップを模索することに全力を尽くしています。私たちは、これらがパンデミックへの備えと健康安全保障を達成するために不可欠であることを理解しているからです。

私たちはパートナーシップを出発点に、グローバルヘルスの体制を変革することができます。また、根強く残る健康課題に対して前進を遂げ、パンデミックの脅威を未然に抑え、保健医療が弾力的で持続可能かつ公平である未来へと前進することができるのです。

一刻の猶予もありません。私たちの健康と人間の安全保障の未来がかかっているのです。


本記事は2022年9月22日にNikkei Asiaで掲載された記事を翻訳したものです。