UNDPの新報告書、暴力的過激主義台頭の原因に関する従来の想定を覆し、治安対策重視の対応から、予防に重点を置く開発ベースのアプローチへと移行する緊急の必要性を明らかに
サハラ以南アフリカの暴力的過激派集団に人が集まる主因は、宗教的イデオロギーよりも、よりよい就職口への期待
2023年2月9日
ニューヨーク − 国連開発計画(UNDP)が発表した新たな報告書によると、暴力的過激派集団がサハラ以南アフリカで急成長を遂げている最大の原因は、就職口を求める人々が集まっていることにあります。
聞き取りに応じた2,200人近い回答者のうち、自ら志願して暴力的過激派集団に加入した人々の4分の1は、雇用の機会を第1の理由に挙げています。これは2017年の画期的なUNDP調査と比べても、92%の増加となっています。
宗教を加入理由に挙げた者は全体の17%で、2017年比で57%減となっているだけでなく、回答者の大半は宗教の書物に対する知識がほとんどないことを認めています。
回答者のほぼ半数は、暴力的過激派集団に志願することとなった具体的なきっかけを挙げていますが、その中で、しばしば国の治安部隊によって行われる人権侵害を「転機」として挙げている者が71%と、驚くべき数字に達しています。
アヒム・シュタイナーUNDP総裁は「2021年の時点で、全世界のテロによる死者の48%を占めるサハラ以南アフリカはいまや、暴力的過激主義の新たな世界的震源地となっています。この急拡大は生命や安全、平和を脅かすだけでなく、これまで苦心して積み上げてきた開発の成果を今後、数世代にわたって逆戻りさせるおそれがあります。治安対策重視型のテロ対策は高くつく一方で、ほとんど効果が上がらないことが多いにもかかわらず、暴力的過激主義の予防策はまったく不十分な状態です。暴力的過激主義の根本原因に取り組むためには、国と市民との間の社会契約を立て直さねばなりません」と述べています。
『アフリカにおける過激主義の実態:参加と離脱に至る道(Journey to Extremism in Africa: Pathways to Recruitment and Disengagement)』と題する今回の報告書は、ブルキナファソ、カメルーン、チャド、マリ、ニジェール、ナイジェリア、ソマリア、スーダンの8カ国で2,200人を対象に行った聞き取り調査に基づいています。うち、志願か強制加入かを問わず、暴力的過激派集団の元メンバーだった回答者は、1,000人を超えています。
また、メンバーを脱退へと向かわせるプッシュ要因とプル要因を明らかにすることで、過激主義からの離脱を促すための道も模索しています。回答者自身は脱退の主な理由として、期待、特に金銭面での期待が満たされなかったことと、過激集団のリーダー層が信頼できないことを最も多く挙げています。また、初めて、女性の視点から暴力的過激主義を捉えるため、男女別のデータを提示しています。
UNDPで暴力的過激主義防止のアフリカ担当技術責任者を務めるニリーナ・キプラガット氏は、「調査を見ると、暴力的過激主義からの離脱者は、再加入して他の人々を仲間に引き入れる可能性が低くなっていることが分かります。離脱を可能にするインセンティブに投資することが極めて重要なのも、そのためです。地域社会は、政府の恩赦プログラムとともに、暴力的過激主義から離脱できる持続可能な道のりを支えるうえで、中心的な役割を果たすのです」と語っています。
報告書は暴力的過激主義の対策や予防策として、児童福祉や教育、質の高い暮らしなどの基本的なサービスへの投資増額と、若年層の男女への投資を提言しています。また、脱退機会の拡大と、社会復帰や地域密着型の再統合サービスへの投資増額も求めています。
報告書について
『アフリカにおける過激主義の実態:参加と離脱に至る道』は、暴力的過激主義の防止に関する3件の報告書のうちの1つとなるものであり、2017年にUNDPが発表した画期的な報告書『アフリカにおける過激主義の実態〜促進要因、インセンティブおよび加入のきっかけ〜(Journey to Extremism in Africa: Drivers, Incentives, and the Tipping Point for Recruitment)』を土台としながら、これをさらに敷衍した報告書です。他には『アフリカにおける暴力的過激主義の力学〜紛争のエコシステム、ポリティカル・エコロジー、原始国家の広がり〜(Dynamics of Violent Extremism in Africa: Conflict Ecosystems, Political Ecology, and the Spread of the Proto-State)』が発刊されています。