スタートアップ支援を通じて日本とアフリカを繋ぐ

UNDP邦人職員インタビュー: 原祥子 UNDP サステナブル・ファイナンス・ハブ地域事務所(在南アフリカ) プログラム専門官

2024年9月26日
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現在、在南アフリカのUNDPサステナブル・ファイナンス・ハブでアフリカのスタートアップ支援に携わる原祥子。日系大手IT企業やJICA海外協力隊、JICA職員・専門家としてのキャリアを経て、 UNDPでビジネスを通じたアフリカのさらなる成長に向け取り組む彼女に、 UNDPのスタートアップ支援の取り組みや自身のキャリア、仕事に対する情熱について話を聞きました。


Q. 国際協力の世界を志したのはなぜですか。 

大学時代、私は特に地域間の経済格差に強い関心を持っていました。大学進学のために地元を離れ、京都に移ったことで、所得格差や地方と都市の間の機会格差を痛感し、悩んだ時期がありました。この経験が、生まれた環境で決まってしまう所得や機会格差に対する意識を強くするきっかけとなりました。そんな中、バックパッカーとしてインドを訪れる機会があり、そこで大きな衝撃を受けました。衛生環境が整っていない中で、障がいを持つ高齢の女性が地面を這って移動している姿を目にし、「もし彼女が日本に生まれていたら、こんな状況には置かれなかったのではないか」と強く感じました。それまで自分の身近で感じていた 所得・機会格差の問題が、この経験を通じて、世界の格差問題へも意識を向けるようになりました。生まれ持った環境や地域の違いが人生に与える影響を痛感し、こういった問題に一生をかけて取り組める仕事に就きたいと強く思うようになり、これらの経験が、今のUNDPでの私の仕事への想いの原点にもなっています。

Q. その中でもアフリカやビジネスに関心を持ったきっかけはありますか。 

アフリカとビジネスへの関心は大学時代から芽生えていました。経済格差に関心を持っていた私にとって、それが教育や医療の格差にも直結することを学び、経済格差を是正することが社会全体の成長の鍵だと強く認識しました。 また、大学でアフリカのビジネスについて学ぶ機会があり、アジアに続いてアフリカが世界の注目を集める時代が訪れると考え、日本がアフリカと協力し、共に成長していくことに貢献したいという想いを持つようになりました。 卒業後は、民間企業での勤務を経て、JICA海外協力隊としてマラウイに派遣されました。そこで、村落の収入向上支援に従事する中で、アフリカの人々に大きな可能性を感じました。現地の村民と共に、ブリケットと呼ばれる環境にやさしい炭のビジネスに取り組みましたが、 現地の人と同じ立場に立ち、泥臭く販売戦略の策定やマーケティングに従事する中で、彼らの熱意に触れ、高い能力を感じました。 意欲や能力があるのに首都から遠い村落にいるために機会が得られない彼らに、資金やビジネス能力開発の機会を提供することで、経済格差の是正とアフリカの経済の発展に貢献したいと強く思いました。 これらの経験から、将来的にビジネスを通じてアフリカと日本をつなぐ架け橋になりたいと強く感じるようになりました。

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JICA海外協力隊時代に農村グループと共にブリケットを作る様子

Q. 日系の民間企業で働いたのち、JICA協力隊やJICA職員として一貫してアフリカとビジネスの分野でご活躍されてきた原さんですが、現在のUNDPで担当している事業について教えてください。 

私が所属しているUNDPサステイナブル・ファイナンス・ハブ(SFH)は、金融を通じて持続可能な社会の実現を目指し、170の国と地域で活動しています。私は南アフリカにあるアフリカ・サステイナブル・ファイナンス・ハブ(ASFH)の地域事務所 で、アフリカ全土におけるスタートアップ支援やインパクト投資等を活用した金融サービスへのアクセスの向上に従事しています。  

現在担当しているプログラムの一つに、 「Meet the Tôshikas.」という日本の投資家とアフリカ現地の起業家やスタートアップを繋ぐプログラムがあります。これは日本の経済産業省の支援を受けており、2024年はアンゴラ、南アフリカ、ザンビアで実施されています。このプログラムは、3つの活動で構成されています。  

アフリカのスタートアップ・エコシステムマッピング報告書 

まず1つ目の活動は、スタートアップ・エコシステムのマッピング報告書の作成・出版です。日本を含む世界の投資家の方がアクセスできるアフリカのスタートアップの情報が限られているという課題を解決するために、アンゴラ・南アフリカ・ザンビアの3カ国のスタートアップ・エコシステムに関する調査を行いました。投資家のアフリカのスタートアップに対する理解向上に繋がることを期待しています。

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アフリカのスタートアップ・エコシステムマッピング報告書

アンゴラ・南アフリカ・ザンビアでのフィールドツアー 

2つ目の活動は、アンゴラ・南アフリカ・ザンビアでのフィールドツアーです。2024年4月には、日本のベンチャーキャピタル3社が現地を訪れ、30社のスタートアップと交流しました。現地のスタートアップが実施したデモンストレーションに対して、日本の投資家たちは熱心に質問を投げかけていたことが印象的で、「実際に現地に訪問したことで、意義のある取り組みを行うスタートアップがあると学ぶことができた」とのコメントもありました。

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ザンビアでのUNDP「Meet the Toshikas」スタートアップ・エコシステム・イベントの様子

Photo: UNDP

スタートアップ・アクセラレーター支援事業 

3つ目の活動は、3か国のスタートアップに対して提供する、投資獲得を目的としたスタートアップ・アクセラレーター支援事業です。このプログラムには、256社のものスタートアップから応募があり、厳正な選考を経て、最終的に6社を選出しました。特徴的なのは、選考段階から日本の投資家が関わっている点です。これにより、初期段階から起業家は日本の視点を学び、日本の投資家もアフリカ市場に対する関心を高めることができます。 

2024年8月にはファイナリスト6社と現地のアクセラレーターを日本に招聘し、投資機会獲得を目指す「日本投資家ロードショー(説明会)」を実施しました。スタートアップは、日本企業への訪問や投資家との面会を通じて、投資機会の開拓を行いました。 

参加者の中で、特に印象的だったのはアンゴラで活動するANDAという企業です。アンゴラでは、自動車の所有率が極めて低く、バイクタクシーが市民にとっての主要な交通手段になっています。しかし運転手の多くが無免許である非公式のバイクタクシーが横行しており、市民の移動における危険度が非常に高いという問題があります。ANDAはこれらの問題を解決するため、ドライバーに対してバイク研修・保険等を提供することで、市民が安全に利用できる移動手段を提供しています。このような素晴らしいアイデアにビジネスマッチングの機会を増やすことの意義を感じました。 

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ANDAが提供するプラットフォームでバイクタクシー業務を行うドライバーと、ANDAの研修施設およびバイク倉庫

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ANDAのCEO兼Co-FounderのSergio氏がUNDPスタートアップ投資サミットでピッチを行う様子

Photo: UNDP

Q. 来年8月、TICAD9 が横浜で開催されます。UNDPでは、TICADを通じた官民のパートナーシップの促進を行っており、セクター間を跨いだパートナーシップの重要性が増していると感じます。そんな中で、原さんが従事しているアフリカでのスタートアップ支援の意義ややりがいを教えてください。 

アフリカには、多くの可能性を秘めたスタートアップが存在する一方で、日本からの投資はまだ限られています。2021年のアフリカ地域への日本を含むアジア太平洋からの投資は、世界全体の9%に留まり、非常に限定的です。  

この背景には、物理的な「距離」に加えて、アフリカに対する情報の少なさや投資ハードルの高さを感じる心理的な「距離」が関係していると思います。日本の投資家の方とお話させていただく機会が何度もありましたが、「アフリカの企業に関する情報が乏しく、現地企業のビジネスのイメージがつかめないこと 」がハードルとなり、投資に踏み切れないという声を多く伺いました。UNDPの役割は、「Meet the Tôshikas.」 等のスタートアップ支援プログラムを通じて、アフリカのスタートアップと日本の投資家を結びつけることで、こうしたギャップを埋め、日本とアフリカの架け橋を築くことです。これは、UNDPが多くの事務所を世界中に展開し、現地に根ざした影響力を持つ開発機関だからこそ実現できることであり、大きなやりがいを感じています。また、日本の投資家や企業にとって、ビジネスの制度や細かい法制度が先進国に比べてまだ整っていないアフリカは、新しいビジネスモデルに挑戦するための場でもあります。投資にとどまらず、日本とアフリカが互いに学び合い、共に成長するという視点からも、この取り組みには非常に充実感を感じています。 

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2024年8月に開催されたMeet the Tôshikas アフリカ・スタートアップ投資サミットの様子

Photo: UNDP

Q. これまで様々な組織を経験し、多くの選択を積み重ね、キャリア構築をされてきたのではないかと感じています。キャリア選択で大切にしていることありますか。 

キャリア形成で心がけていることは、「常に自分でハンドルを握る」ということです。私は日本に生まれて、様々な機会や選択肢がある環境にいると思います。お金の問題、周りの意見などに左右されること、反対に選択肢の多さから悩むこともあるかと思います。答えはきっと自分の中にあります。できるだけ自分に正直になり、「一度きりの人生で何がしたいのか」「大切にしたいものや考え方は何か」を突き詰めることが大事だと考えています。 私は、ノートを片手に自分が何を大切にしているのか、何をしたいのかを考える時間を持つよう心がけています。そして、自分の選択を信じ、自分が選んだ道を「正解」にすることが重要だと思っています。

 

Q. 最後に今後の展望を教えてください。 

まず、経済格差や機会格差の縮小に引き続き貢献したいです。これまで、アフリカで生活してきて、地域や環境により機会が与えられず、夢を諦めざるを得ない人たちを目の当たりにしました。 そんなポテンシャルを持った人たちに資金や機会を提供することで、彼らが世界の変革者になるきっかけづくりをしたいです。 

そして、アフリカと日本のビジネス分野の懸け橋となることで、 アフリカのビジネスの成長にも貢献したいと思っています。UNDPの仕事をする中で、アフリカのビジネスのポテンシャルを強く実感しています。アフリカには社会課題が山積していますが、ビジネスのイノベーションを通じて、それらの課題を解決し、 アフリカを起点に世界に格差などをなくすようなアイデアやビジネスソリューションが広がっていけば良いなと思います。 

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原祥子(左)と聞き手(UNDP駐日代表事務所インターン河東)

原祥子 | UNDP サステナブル・ファイナンス・ハブ地域事務所(在南アフリカ) プログラム専門官  

新卒で入社した日系大手IT企業を退社後、JICA海外協力隊としてマラウィでビジネス支援を実施。その後、イギリスのサセックス大学IDSで修士号を取得。タンザニアなどでビジネスを通じて社会課題解決に取り組む日系スタートアップや、アフリカ向けのベンチャーキャピタルでの仕事に従事。2019年より、JICAの本部やエチオピアで専門家としてアフリカのスタートアップ支援に携わった。2024年1月より、JPOとしてUNDPアフリカ・サステイナブル・ファイナンス・ハブ(ASFH)の地域事務所でスタートアップ支援や中小企業支援を推進する。