ジェンダー格差への挑戦 -モーリタニアで自動車整備事業を営む女性-

2022年3月7日

モーリタニアの経済都市であるヌアディブに住むサーダニ・ビン・アベイドナさんは、自動車修理工場を設立し、男性中心の業界で成功を収めた最初の女性です。

サーダニさんは31歳、結婚して3人の子どもを育てながら、自動車整備の学士号を取得、さらにスキルアップのために複数の企業で職業訓練を受け、労働市場への参入を目指していました。しかし、資格や技能を持っているにもかかわらず、彼女の就職活動は思うようにはいきませんでした。ただそこで彼女は決して諦めず、「女性が働いて生計を立てる」という野心と希望を持ち続けました。

自動車整備は重労働であり、男性のための仕事であると考えられることがあります。特にモーリタニアでは、重労働の仕事をするために必要なスキルの取得や雇用機会の大部分は、男性優位となっています。女性が身体的な職業にたずさわったり、男性的とみなされるそういった肉体労働・職業に就こうとすることは、不適切であると、社会的なスティグマを強く受ける恐れがあるのです。

女性の起業を阻む要因

サーダニさんに、様々な壁が立ちはだかりました。一つ目は資金の問題です。事業の資金調達を行うため、自らの資産を売却するという難しい決断をしました。また、社会的なプレッシャーから耐えながら、自らの事業を守る必要もありました。こうした困難にぶつかりながらも、サーダニさんは前に進むことを決意します。社会的スティグマと闘いながらも、主に男性が収入を得るためとされる活動に対し、女性であっても従事する機会をつくり、新しい社会のかたちを目指し、自分の道を突き進むことを決心したのです。

このような社会における女性の新しい役割は徐々に定着し、モーリタニア社会に潜在的な変化をもたらそうとしています。こういった変化は、モーリタニアの将来的な社会経済構造に大きな影響を与えるはずです。女性がモーリタニアの経済や地域経済を活性化させる役割を果たし、社会の発展に貢献する新しい現実が待っているのです。

モーリタリアの労働市場における女性の割合は、2010年の29.5%から2020年には31.5%と、徐々に増加しています。現在、50.8%以上の女性が失業中且つ、求職活動をしていません。働く女性の多くは、仕事をしても給料を得られないか、収入を生みださない労働に従事しているのです。雇用・青少年・スポーツ省 (the Ministry of Employment, Youth and Sports)によると、2017年の雇用率は女性が27.22%であるのに対し、男性は59.71%となっています。

また、モーリタニアのジェンダー指標(2014年)によると、民間企業の管理職の女性比率は4.5%と著しく低くなっています。管理職における男女平等は、依然として達成が非常に困難な目標であると言えます。

モーリタニア人女性による革新的で勇気あるイニシアチブ

女性にとって労働市場にアクセスすることが難しい状況の中、いくつかの革新的な起業、取り組みが生まれています。特に、サーダニさんのようなモーリタニア人女性による「非伝統的」な取り組みが注目されています。

モーリタニアのUNDP アクセラレーター・ラボでは、これらの新しいイニシアチブを起こす可能性を探っています。これらの取り組みは大きな変化をもたらす可能性があり、開発の課題において前向きな影響をもたらすことが期待できます。


*アクセラレータ・ラボとは
UNDPアクセラレーター・ラボとは、世界115ヵ国、91か所にUNDPが展開している、開発課題の新しい解決策を創出する活動で、現地政府や民間企業、様々な団体と連携しながらSDGs達成を目指しています。


このような観点から、モーリタニアのアクセラレーター・ラボでは、女性が経済的・社会的により重要な役割を果たすようになったことを社会変化を示す指標とし、このような社会変化の調査を進めています。アクセラレーター・ラボのチームは、サーダニさんと連携し、彼女の経験を他の女性達の取り組みに役立たせ、より多くの女性たちが経験やスキルを身につけられるように支援しました。また、UNDPでは女性が収入を得るための活動への参加を促進させ、社会的偏見や成功を阻む障害を克服するための支援も行っています。

「事業のアイデアを持つすべての女性に、実現に向かってアイディアを突き進めることを勧めます。困難にあったとしても、決してあなたの夢を妨げられないでください。今こそ、女性が経済的に自立し、自分のビジネスの管理者になる時です」とサーダニさんは述べました。

「そして、自らの目標を達成するために必要な教育やトレーニングを受け、スキルやノウハウを高めてください。他人に依存をしてはいけません。」とサーダニさんは続けます。

女性起業支援の必要性

起業家精神の新しい方向性を探ることは、持続可能な開発目標(特にSDG5とSDG8)と密接に関連しているため、アクセラレーター・ラボやモーリタニアのUNDPが実施する他のプログラムにとっても非常に重要な意味を持ちます。これら幾つかのコラボレーションには、男性のためにあると考えられている経済活動であっても、女性が活躍できるようになることが期待されます。