アジア太平洋地域における津波対策:デジタルツールと学校での津波避難訓練からの教訓

世界防災フォーラムで発表

2025年3月10日
Group photo of diverse attendees at the World Basel Forum 2023, smiling and posing together.
Photo: UNDP

二百万 – これは、1970年から2022年の間にアジア太平洋地域で発生した災害による死亡者数です。この地域での災害による経済的損失は推定で2.7兆米ドルに達し、その中でも津波は最も打撃のある災害で3番目、経済的に最も破壊的な災害で4番目に位置しています。

「日本では長年、津波対策はわたし達の暮らしに欠かせないものとなっています。子どもたちに避難方法を教えたり、過去に実際起こった津波に関する言い伝えや経験を共有し、コミュニティーが互いに何世紀にもわたって学んでいます。こうした経験こそが、日本が世界の災害対策やリスク削減への取り組みを共創する原動力となってます。」と、宮城県仙台市で開催された2025世界防災フォーラムにおけるセッションで、ハジアリッチ秀子UNDP駐日代表は語りました。

A woman speaks at a podium with a projector screen behind her during a conference.

ハジアリッチ秀子UNDP駐日代表

Photo: UNDP

長年にわたる日本の災害に関する教育と意識向上への取り組みは、2024年の能登半島地震における市民の迅速な対応に表れました。頻繁に訓練を行っていたコミュニティでは、より迅速で協力的な避難が行われました。ある住民は「もし定期的な訓練がなければ、皆が死んでいたかもしれない。これは奇跡ではなく、訓練の成果なのです。」 と述べています。定期的な訓練や防災の日の制定、学校のカリキュラムへの組み込みのような備えの文化は、命を救う上で重要な役割を果たしてきました。

これらの原則をアジア太平洋地域全体に広げるために、日本政府はUNDPと連携し、地域津波プロジェクトを進めています。この取り組みは、教育と地域主導の活動を通じて、津波対策を変革しています。

津波プロジェクトの一環として、日本で開催された世界防災フォーラム2025では、UNDP主催のセッションが行われ、専門家、政策立案者、教育者、地域コミュニティのリーダーが一堂に会し、津波避難訓練や早期警報システムから得られた主要な成果や教訓について議論しました。

実際の体験談を紹介するインタラクティブなセッションでは、学校での津波避難訓練から得られた知見に焦点を当て、津波対策におけるSTEP-A(津波・地震対策強化評価)デジタルツールの役割を示しました。

ライブデモンストレーション:STEP-Aが津波対策をどのように変えるか

オーラルセッションでは、STEP-Aモバイルアプリケーション(link is external)のライブデモンストレーションが行われました。このアプリは、学校が自らの津波対策を評価できるようにし、インドネシアの国家デジタル地理空間プラットフォーム「InaRISK(link is external)」に統合されています。

インタラクティブなセッションとして、参加者は自らの携帯電話でSTEP-Aアプリケーションを使用し、仮想の学校の津波対策をリアルタイムで評価した後、それぞれのグループ作業による結果を確認しました。

STEP-Aモバイルアプリケーションのライブデモンストレーション

Photo: UNDP

インドネシアでは、津波の被害を受けやすい200以上の地域の学校がSTEP-Aイニシアティブに参加しており、学校が今後の災害に備えるための重要な第一歩となっています。

このプロセスでは、学生、教師、学校管理者が一連の質問に答え、それを基に総合的な準備状況指数が算出されます。2004年のインド洋津波(IOT)で最も大きな影響を受けた地域の一つであるアチェでは、いくつかの学校がSTEP-Aの枠組みを適用することで、避難訓練や準備状況の評価を日常生活に積極的に取り入れています。

STEP-Aの重要な利点の一つは、災害対策における自立性を促進する役割です。自己評価に重点を置くことで、学校は自らの災害対応戦略における課題を特定し、的を絞った改善策を打ち出すことができます。

インドネシアでのSTEP-Aイニシアティブの実施における地方自治体、NGO、学校コミュニティとの連携の成功は、アジア太平洋地域の他の津波危険地域にとっても拡張可能なモデルとしての潜在能力を示しています。

世界防災フォーラムは、技術、教育、そして地域の活動が一体となることで命を救うことができることを再確認する機会となりました。しかし、そのためには勢いを持続させることが不可欠であるということも強調されました。

戦略から行動へ:津波プロジェクトの重要な成果

2017年以来、UNDPと日本政府は、地域津波プロジェクトを通じて、日本の津波対策の原則をアジア太平洋地域に広げるために取り組んできました。

学生、教師、政府関係者、地域住民と連携することで、このプロジェクトは災害への備えの文化を育み、子どもたちに災害時に効果的に対応するための知識と技術を身につける力を与えています。

また、本プロジェクトは、学校、地域社会、政府による定期的な訓練を実施、避難計画の改善、津波対策プログラムの実施を支援しています。アジア太平洋地域の24か国の800の学校から、合計22万人以上の学生、教師、学校管理者が津波避難訓練や緊急対応訓練に参加し、津波発生時に効果的に対応する能力を強化しました。

「津波プロジェクトの支援を受け、タンジュン・ベノア地区ではすべての関係者が協力し、相乗効果を生み出し、誰一人取り残さないことで、災害に対するレジリエンス力が強化されました。」ー インドネシア・バリの小学校校長、Luh Sri Sudharmini(ル・スリ・スダルミニ)氏

Presenter speaking at a podium during the World Bosai Forum 2025 event, with a projector screen behind.

二瓶直樹 UNDP駐日代表事務所パートナーシップアドバイザー

インドネシア・バリの小学校校長、Luh Sri Sudharmini(ル・スリ・スダルミニ)氏

Photo: UNDP

今後、UNDPと日本政府は、より多くの学校や地域に命を守るための対策戦略を提供し、公共の意識を高めることを目指しています。これにより、学生や地域コミュニティが津波発生時にリスクを減らし、安全性を高めるための力を得ることを支援します。 

政府、教育者、地域のリーダーは、津波対策を災害リスク削減政策や計画に組み込む上で重要な役割を果たしており、これにより、将来の世代が災害の発生した際に備えられるようにしています。

津波プロジェクトの詳細については、こちらのページをご覧ください。