岡井朝子 国連事務次長補 兼 UNDP危機局長
国際移住者デーに寄せて:エンパワーメント、社会的包摂、社会的結束の推進
2021年12月17日
国際移住者デー(12月18日)は、移住者が開発にもたらす役割を祝う日です。移民した人々が自らの生活を向上させながら、出身国、そして移住先での経済や社会に大きく貢献していることは数字にも表れています。
このような前向きな結果は、移民にどう向き合うかに大きく左右されます。安全で合法的な移住をサポートできず、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)への機会や基本的なサービスへのアクセスが制限される場合、経済的に困窮し、差別や外国人排他へのリスクが高まる可能性があるのです。女性の移民は残念ながら特に阻害やジェンダーに基づく暴力の影響を受けています。
今日、多くの国では、移民が自国の人々や経済にもたらすかもしれない「リスク」を強調することに始終し、一部の政治家においては、メリットを示すより、社会の諸悪の根源として移民をスケープゴートにしていることもあります。
社会的結束への投資は、反移民感情を抑え、市民的共存を促進し、持続可能な開発への移民の貢献を高めるのに役立つ重要な手段の一つです。特に、移民の急激な増加に直面する地元の人々にとって当てはまります。
政府および社会における信頼、そして移民と受入れコミュニティの平和的共存は、持続可能な平和と共通の開発目標を実現し、差別に取り組む上で、UNDPの優先事項となっています。
UNDPの活動は、社会経済的統合、基本的なサービスの拡大、公共キャンペーン、仕事、受入れ側と移民のコミュニティを結びつける社会的プロジェクトに重点を置いています。さらに、ジェンダーに対応した取り組みにおいては、人身売買から女児の保護や移民女性のエンパワーメントなど、共通の関心事に取り組んでいます。
これらの実施を加速するために、UNDP は以下のガイドラインを発行しています
- Strengthening social cohesion: conceptual framing and programming implications
- Engaging with insider mediators—sustaining peace in an age of turbulence.
社会的結束の構築
UNDPはトルコ政府と協力して、トルコとシリアの 難民コミュニティの1400人の若者を対象に、情報技術の訓練、起業に関するアドバイス、スポーツ、文化、そして 植樹など地域活動などを提供しました。
トルコで実施したハッカソンでは、受け入れ側と移民コミュニティ両方から若い起業家が集い、気候危機への対応について話し合いました。トルコ人のある参加者は、「異なる文化を持ちながらも、ゼロから人生を始めようとしている希望に満ちた、私たちと同じ起業家に出会いました」と語りました。
UNDPはまた、トルコ国内にいる360万人のシリア難民に対応し て、基本的なサービスを拡大するために地元の自治体を支援。同国ガジアンテップ市では、UNDPにより革新的な廃棄物管理システムが開発され、現在トルコの他の都市でも使用されています。
コロンビアのラ・グアヒーラ県にある国境の町マイカオでは、Banco Amableプログラムが受入れコミュニティとベネズエラからの移民を結びつけています。UNDPは政府や地方当局と協力し、受入センター、女性のソーシャルネットワーク、共有活動などを立ち上げました。
移民と受入れコミュニティは、都市の清掃プログラム、エコロジーパークの建設、大通り沿いの植樹計画、小規模ビジネスのトレーニングなどに参加し、さらに2700人が社会的結束のための行動を再現するためのトレーニングを受けています。
女性の役割
女性は、移民と受入コミュニティの間の社会的結束の主要な原動力となり得ます。しかし、それと同時に、女性は除外される可能性も高く、ディーセントワーク、教育、ヘルスケアへのアクセスが減少し、暴力や人身売買のリスクにさらされます。
ウガンダでは、UNDPはウガンダ北部アチョリ地域と西ナイルの難民受入れコミュニティで女性の経済的エンパワーメントを改善し ています。緊急雇用と職業訓練、能力開発、学校教育を提供することで、UNDPはジェンダーの不平等とジェンダーに起因する暴力に取り組んでいます。
ペルーでは、女性社会的弱者省との緊密な協力のもと、 ベネズエラ人に特に重点を置いて、ジェンダーに基づく暴力の防止と女性に対する暴力の潜在的被害者の保護にも取り組んでいます。
新型コロナウイルスという難題
世界中の移民受入れコミュニティでは、適切な条件のもとで、先住者と新来者の接触や「ソーシャル・ミキシング(social mixing)」が増えることで、外国人恐怖症や偏見を軽減し、平和的共存を促進することができるという共通理解が高まっていました。
しかし、収まらない新型コロナウイルスの蔓延に対して、ワクチン接種前の私たちの唯一の防御策は、ソーシャル・ディスタンスを置き、職場や礼拝所を閉鎖し、ほとんどの国で集会を禁止し、通常の人間関係のメカニズムを壊すことでした。
同時に、必要不可欠なサービスを提供する労働者としての移民の貢献が認められる一方で、移民は病気を蔓延させる、基本的なサービスの負担となる、縮小する雇用市場で競合するなどの汚名をきせられたのです。
レソトとギニアでは、新型コロナウイルスが越境地域に住むコミュニティに不釣り合いな影響を与えることが分かりました。国際移住機関(IOM)との連携を通じて、UNDPは国境当局と協力し、パンデミック時にコミュ ニティの結束を促進しました。
レバノンでは、UNDPが地元の自治体に対し、新型コロナウイルスとベイルートに大きな被害を及ぼした2020年に起きた爆発の際に、困難な状況にある受入側と難民コミュニティのためのホットライン、さらに障がい者のための支援を実施しました。
私たちからのメッセージ
2008年の「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(Global Compact for Safe, Orderly and Regular Migration)」を通じて、各国政府は、移住者が社会の一員となれるよう力を与え、彼らの積極的な貢献を強調し、包括性と社会的一体性を促進することを約束しました。
新型コロナウイルスの流行は、移民が直面する多くの困難、特に新しいコミュニティへの溶け込みに大きな影響を与えています。適切な支援と社会的結束に関する政策があれば、移民はより包括的で持続可能かつ強靭な世界の構築に貢献することができます。パンデミックへの対応は必要ですが、この前向きな成果を守るための努力を怠ってはならないのです。
国際移住者デーを迎えるにあたり、移民の積極的な貢献と、安全で尊厳ある生活を送る権利を再確認するとともに、外国人嫌悪や差別から生まれる誤解に共に取り組む決意を新たにしましょう。