TICAD 8サイドイベント
TICAD 8のサイドイベントでアフリカの人間の安全保障を議論
September 26, 2022
新型コロナウイルスのパンデミックによる長引く経済危機の遅れ、ウクライナで続く戦争による食糧安全保障への影響、継続的な気候変動の影響など、アフリカが一連の危機に取り組む中、2022年8月27~28日にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)のサイドイベントにおいて、生活と尊厳を守る必要性が強調されました。
本イベントの登壇者は、Afrobarometerによる調査データー「ポスト・コロナ時代のアフリカにおける人間の安全保障」を基に議論を行い、人々の安全、生活、尊厳が、アフリカ大陸の開発課題を支援するすべてのグローバルな協力やパートナーシップの包括的目標となるべきであるという点で認識を一致させました。
冒頭開会挨拶を行った国際協力機構(JICA)の加藤隆一上級審議役は、JICAが個人、コミュニティ、社会の保護と強化を支える人間の安全保障の概念を支持していることを強調しました。
「人間の安全保障の概念の下、JICAはアフリカ諸国の人々や政府、そして国際社会と協力していくつもりです。私たちが共同して努力することで、長期的にアフリカのレジリエンスを高めることができます」と加藤氏は述べました。
同じく歓迎挨拶に立ったUNDPアフリカ地域局長のアフナ・エザコンワは、JICAとAfrobarometerが最近のグローバルショックから回復するためにアフリカ諸国と国際社会を支援するために継続的に取り組んでいることに謝意を示し、新たに生じた複雑な課題に取り組むために、世界全体で協調する取り組みの必要性を喚起しました。
その上で、これらの外発的要因は、数十年にわたる開発の利益を損ない、多次元的な脆弱性を増大させるおそれがあると警鐘を鳴らしました。アフリカでは、他の地域と同様、こうしたショックが経済成長を弱め、不平等を拡大し、生産性の改善を妨げ、安全保障の課題を引き起こしています。
アフリカ大陸の平均GDP成長率はほぼ30年ぶりに低下し、人間開発指数も低下しました。さらに、ほとんどのアフリカ諸国は、高い債務負担、遅い経済回復、縮小する財政余力、限りある資金調達といった課題を抱えています。5,000万人以上の人々が極度の貧困に陥り、1億6,800万人が食糧不足に陥り、1億人が持続可能なエネルギーの選択肢を持てない状況です。
しかし、エザコンワは、アフリカは戦略的かつ重要な岐路にあり、人間の安全保障を再定義、再評価し、開発の課題や脅威に対して協力的かつ協調的に対応する好機であると述べました。また、政府機関、市民社会、民間セクター、地域コミュニティの能力を結集して対応する必要があると述べました。
「なぜなら、人間の安全保障は、様々な次元で相互に結びついた脅威が、いかに人々やコミュニティを危険にさらしているかについての理解を深めるとともに、社会の中で最も弱い立場にある人々を守るための解決策を見出す一助となる大きな可能性を持っているからです。」
人間の安全保障に対する様々な脅威を特定し、課題に対処し、持続可能な解決策を実施するJICAの取り組みに沿って、Afrobarometerは、異なる開発段階にある6カ国(アンゴラ、ガボン、ケニア、ナミビア、ナイジェリア、チュニジア)を調査し、様々な次元の相互に関連する脅威が、人々や地域をどのように危険にさらしているかを評価しました。
南アフリカのステレンボッシュ大学のガイ・ラム博士は、この調査は、人々が人間の安全保障に対する脅威にどのように対処しているか、自分たちの安全をどのように確保しているか、保護メカニズムは利用できるか、アフリカの人間の安全保障を強化するために必要な措置は何かを明らかにするために行われたと述べ、調査の結果について説明しました。
ラム博士は、「自国の将来の方向性についてどのように感じているかという質問に対して、6カ国の人々はかなり大きな不安を感じているようだ」と述べました。
この調査では、特に雇用の喪失や収入を得るための活動に関して、パンデミックが人間の安全保障に大きな影響を及ぼしていることが浮き彫りになりました。さらに、将来の健康上の緊急事態に対応する政府の能力について楽観的な見方が少ないこと、女性は親密なパートナーからの暴力のリスクにさらされ、子どもは家庭での暴力にさらされやすいことが示されました。
Afrobarometerは、人間の安全保障の枠組みを人間開発の分析に大きく取り入れるべきであると提言しました。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の峯陽一教授は、この点を支持し、「人間の安全保障のアプローチを成功させるには、安全保障の全体的な評価のための枠組みを提供するだけではなく、一般の人々が人間の安全保障の様々な側面について定期的に見解、経験、評価を共有できるフィードバックの機会を創出しなければならない」と強調しました。この文脈で、Afrobarometerは、一般のアフリカの人々が政府、政策立案者、開発関係者に対してフィードバックをすることのできるプラットフォームを提供している と述べました。さらに、「大陸全体では、人々の主観的な認識と客観的な状況との間に起こりうる不一致を考慮し、国、地域、グループ間でなぜ意見の違いが生じるのかを分析することが重要になる。援助する側はアフリカの主体性を尊重すべきである」と述べました。
マラウィの地方自治大臣であるブレッシング・チンシンガ教授は、この調査結果は特に驚くべきものではなく、大陸における人間の安全保障の状態と一致していると強調しました。彼は、Afrobarometerが一般のアフリカの人々の声を取り入れたことを評価し、このような取り組みは政策立案者が人間の不安の根底にある力学のニュアンスを実践レベルで理解するのに役立つと述べました。
「この結果は、人間の安全保障に関する伝統的な概念から脱却し、アフリカ各国政府が政策介入を検討するにあたり、人間の安全保障を脅かす内外の要因の相互作用について考察するための具体的な根拠を与えてくれます」とチンシンガ教授は述べました。
次いでAU委員会の上級技術・パートナーシップ専門家のシーラ・タマラ・シャワ博士は、人々の懸念や不安感情に対処し、それを改善していくために、アフリカ連合(AU)のような大陸の組織や準地域的組織は、各国における人間の安全保障を促進する公共政策の策定を支援し、開発課題に対する具体的な解決策を提供できると述べました。
「例えば、私たちが気候変動の問題に取り組み、地域社会の意識を高めることができれば、食糧安全保障や栄養に影響を与え、病気に対応し撃退できる健康な大陸と人々を促進することができます。」
さらにシャワ博士は、既存の政策に対する国民の意識を高めることが、絶望感や政府の役割や取組みに対する否定的な感情を和らげるのに役立つと述べました。
JICA、UNDP、AUは、人間の安全保障が再び注目されていることを踏まえ、アフリカにおける人間の安全保障の関連性、そして復興と回復力強化のための戦略について議論することが急務であるとの見解を共有しました。
JICA緒方研究所の牧野耕司副所長は、現在の世界における複雑な脅威がSDGsのダウンサイドリスクであることを考えると、今こそ人間の安全保障を実現するための行動を実行に移す時であると述べました。
牧野氏は、現在の脅威に対するマルチセクターのアプローチが緊急に必要であると強調し、人々が恐怖や欠乏から解放され、尊厳を持って生きることができるレジリエントな社会を構築するために、政府、市民社会団体、ビジネス、国際社会のパートナーシップを強化するよう呼びかけました。また、共通価値の創造、DX、グローバルガバナンスの3つの変革が、人間の安全保障の実践を促進する革新的なアプローチであると強調しました。
UNDPアフリカ地域チーフエコノミストのレイモンド・ギルピンは、新たな人間の安全保障の概念と、アフリカ大陸の膨大な天然資源を持続可能な開発に活用するアフリカ諸国の能力との関連について、まずステークホルダーやパートナーは、多国間主義の弱体化が、世界全体の人間の安全保障に影響を与える能力に悪影響を与えることを理解・評価する必要があると指摘しました。
彼はすべての関係者が、人々のエージェンシー(力)、信頼および調整に焦点を当てることが重要であると強調しました。人々に対する社会的保護の提供のあり方、あらゆる集団のエンパワメントを図ることの重要性について言及する一方で、今後の開発のあり方に関して野心的なスケールアップを図るためには人々の間の連帯が重要であることを強調しました。
「開発とは何か、持続可能な移行とは何か、アフリカにとってグリーンエネルギー移行とは何かという点で、野心的なスケールアップが必要です。この2つの重要な意味でのスケールアップには、連帯感が非常に重要です」とギルピンは強調しました。
パネリストたちは、人間の安全保障構成する様々な次元(経済、政治、コミュニティ、個人、健康、食糧、環境)のうち、いずれかでも欠けていれば、恐怖や欠乏のない、アフリカの人々にとって尊厳ある充実した生活を達成することは不可能であるという点で合意しました。
最近発行されたUNDPの報告書「New threats to human security in the Anthropocene (2022)」やJICA緒方研究所の報告書「Human Security Today(2022)」では、なぜ人間の安全保障のアプローチがこれまで以上に必要とされるのか、関連する背景と根拠を提供してその重要性を強調しています。
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