世界経済を脅かす自然破壊、今こそ深刻な金融犯罪として非合法化を
2023年5月21日
グローバル経済の中で自然と天然資源の価値が過小評価されていることによって、生物種の絶滅から森林破壊など、人間は自然危機という究極の代償を払っています。
我々はあまりにも長い間、生態系の保護に十分な投資をしてこなかったばかりか、多くの経済活動は自然を積極的に破壊してきました。自然は、人間の命と生活の基盤となる貴重な人類の共有財産。これを破壊する行為は大規模な窃盗罪とみなされるべきです。
自然を破壊するという行為は、国や社会に対する詐欺行為であり、現時点で全世界のGDPの約半分に相当する44兆米ドルを生産していると見られる資源を枯渇危機に陥れています。 野生の花粉媒介者や海洋漁業資源、熱帯木材という、生態系サービスのごく一部を失っただけでも、2030年までに全世界のGDPを毎年およそ2.7兆ドル引き下げる影響が生じかねません。
現在、私たちの自然との関係は経済的に暗い見通しとなっています。生物多様性を経済的に分析したダスグプタ報告書は、人間の自然に対する需要が自然の供給能力を超過し、生物多様性に大きな圧力を加える一方で、将来の世代を「極度のリスク」にさらしていることを明らかにしました。 自然の乱用による大きな代償を認識し、自然破壊という行為を抑止するには、各国が自然の破壊と劣化を緊急に非合法化する必要があります。金融犯罪と同様に、自然資本の窃盗犯を起訴することにより、自然の価値に対する考え方が根本的に変わってくるのです。健全な生態系を人類全体のウェルビーイングの基盤として認識する法的、また経済的理念が生まれるのです。
その出発点として、土地などの自然資本の定義を生態系サービスも含むように拡大するべきです。そして、自然破壊が土地資本の「所有者」以外のあらゆるステークホルダーに対する幅広い影響も把握できるようにせねばなりません。自然と多様な生態系サービスを、不動産や現金、債券、株式と同じように一つの資産クラスとみなせば、環境の劣化と生物多様性の喪失が、ビジネスや投資にとって重大な財務リスクであるとの認識を確立することに役立つでしょう。
「自然破壊は国や社会に対する詐欺行為であり、現時点で全世界のGDPの約半分に相当する44兆米ドルを生産していると見られる資源を危機に陥れています」
同時に、保護と持続可能な管理によって価値が上がる資産として、自然を考え直すことにもつながるでしょう。土地の「所有者」以外にも法的利益を拡大すれば、将来の世代を含め、その価値の保全に利害権を有するすべての当事者の権利が認められる可能性もあります。
そうすれば、自然に害を及ぼしている者の説明責任が高まり、自然保護に対する法的なインセンティブも強まるでしょう。自然を一つの資産クラスとして全面的に認識すれば、環境保全への投資が妥協ではなく、将来に向けて重要な天然資源を保護することで得られる新しい持続可能な利益の源泉であるとの明確なシグナルを送ることにもなるでしょう。よって、このようなインセンティブの導入は2030年までに、貧困の削減や陸と海の豊かさの保護を含め、17の持続可能な開発目標を達成するうえで根本的な役割を演じる可能性さえあります。
こうした変化は実際に起こり始めています。国連総会は、各国が気候変動に対処する義務に関し、国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見を求める決議を可決し、対策を取らない場合の責任と、より大胆な気候変動対策の必要性を示唆しています。
国連総会が昨年、クリーンで健全かつ持続可能な環境に対する人権を正式に認識したことで、政府も企業もこの権利の尊重、保護および実現を図るのではないかとの期待が高まっています。欧州連合(EU)は現在、船舶による海洋汚染などの環境犯罪につき、企業に売上の10%以上の罰金を科し、公的資金による支援を禁止することを盛り込んだ提案を検討中です。こうした取り組みは、今年採択される見込みの企業サステナビリティ指令案とも整合しています。この案が採択されれば、人権と環境のデュー・ディリジェンスが義務づけられるとともに、加盟27か国で営業し、これに違反した大企業に民事責任が問えるようになります。
野生生物の密猟との闘いも、大きな進展を見せています。これまで低額の罰金以外に抑止手段がなかった密猟は現在、違法取引と関連づけられて訴追の対象となることが増えており、法的な抑止措置も投獄を含め、はるかに拡大、強化されています。 地球の天然資源に対して負っているさまざまな責任について、政策決定者の認識を深めるための取り組みや仕組みも数多く出てきています。例えば、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、自社の事業の自然に対する影響度と依存度について、企業が測定、報告できるようにすることで、自然関連の財務リスクを明らかにするための枠組みを開発中です。
また、自然とその破壊がもたらすリスクの再評価に向けた勢いは、その他の運動によっても引き続き強まっています。ストップ・エコサイド財団は、長期にわたる大規模な歯止めのない自然破壊を国際犯罪にするため、政府間プロセスとの連携を強めています。
自然が生存し、繁栄し、再生する権利を擁護する運動は、全世界で生物多様性喪失のスピードを緩めるという意味で、多くの好影響を及ぼせる可能性があります。例えば北海という自然物に法的人格を与え、海底石油掘削や洋上風力発電基地が気候変動や生物多様性喪失に与える影響及びその影響がどのように北海という生態系(法的人格)に害を及ぼすかの検討を義務づけることを求めるキャンペーンもあります。また、全世界で多くの国が、すでに自然の権利を法的に認める方向で、施策の導入を始めています。
国連開発計画(UNDP)も、そのBIOFIN(生物多様性ファイナンス)イニシアティブを通じ、40か国以上と連携しながら各国の生物多様性対策資金計画を策定し、政府が経済的に妥協することなく、自然を保護し、自然に投資するために採用できる150の現実的なメカニズムを提供しています。その中には、自然に害を及ぼす補助金の目的を変更し、より公平で自然保護にも資する取り組みを促す施策も含まれています。
説明責任の強化に向けた取り組みは進んでいますが、政府や国際機関、市民社会、非営利組織が一丸となって、私たちの自然に対する価値認識を変容させ、自然破壊の代償に対する私たちの見方を変えてゆく必要があります。私たちの自然資産の窃盗または破壊に対して、重大かつ執行可能な責任を負わせることは、健全な地球で持続可能な未来を実現するための変化を促す重要な手段となりえます。
本稿は当初、アメリカ経済紙フォーチュン紙英語版に掲載されたものです。