SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS)フェーズ4 生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)サイドイベント(コロンビア・カリ市)
自然と調和する社会へ Societies in harmony with nature
2024年12月6日
2024年10月30日、国連開発計画(UNDP)は、日本政府環境省、経団連自然保護協議会、地球環境ファシリティ(GEF)小規模無償プログラム(SGP)、生物多様性条約事務局(CBD)及び 国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)と共に、コロンビア・カリ市で開催されたCOP16にて「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS)」(脚注*)サイドイベントを開催しました。
COMDEKSは、日本政府及び国連大学提唱のSATOYAMAイニシアティブの旗艦事業として、生物多様性保全と人間の社会活動の調和と共存を目指す現地活動を世界各地で支援するプログラムです。2011年から実施され、現在第4フェーズ(2022-2027年)に入っている当プログラムには、それまでの支援者である環境省に加え、新たに経団連自然保護協議会も強力なサポーターとして加わっています。
サイドイベント冒頭の開会の挨拶では、国連事務次長補兼UNDP総裁補のマルコス・ネトが、人類にとって最も重要な資産である自然との関係を再構築してゆく必要性に触れ、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の野心的なグローバル目標は、地域コミュニティレベルでのコミットメントと具体的取組なしには達成できないと述べ、SATOYAMAイニシアティブがその模範であることを強調しました。
環境省・地球環境審議官の松澤裕氏は、同省の支援で10年以上にわたりSGPの枠組でUNDPにより実施されてきたCOMDEKSプログラム活動で培われてきた経験が、GBFそのものの構築に貢献したこと、また今後フェーズ4の活動を通じ、COMDEKSがGBFの目標達成において更に重要な役割を果たしてゆくであろうと述べました。また、日本政府としてCOMDEKSを通じて途上国での生物多様性保全と自然資源の持続可能な利用に一層貢献してゆく意志を強調しました
それに共鳴する形で、経団連自然保護協議会の西澤敬ニ会長は、COMDEKSが「自然と調和して生きる」という目標を実現するための最良のアプローチの一つであり、プログラム対象地域内における様々な分野・ステークホルダーの協力から、より大きなインパクトが生まれることへの期待を述べました。2022年のCOP15において発表されたCOMDEKSフェーズ4に対する3億円の拠出を通じ、経団連自然保護協会としてこれまで30年にわたり実施してきた世界各地での自然保全活動への貢献を、さらに強力に進めてゆく方針であることを確認しました。
このサイドイベントでは、これまでUNDP実施によるSGPプログラム及びCOMDEKSプログラムから支援を受けた各国のコミュニティ活動の成果のいくつかを、動画を使って紹介。SGPパートナーシップ・スペシャリストのリサ・エドゥは、ランドスケープ/シースケープの多様性、生態系の健全性と回復力、生計と福祉、生物多様性と持続可能な管理(農業と漁業)、ガバナンスと社会的公平といった、COMDEKSが内包する多様なテーマに関して発表しました。
国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)のスニタ・スブラマニアン氏は、GBFの優先事項を反映すべく更新されたCOMDEKSの「レジリエンス指標ツールキット」について説明。これは、コミュニティが自らをとりまく生態系および地勢的、社会的要素の過去と現在の状況を評価するマッピング作業を通じ、コミュニティが息づくランドスケープ・シースケープ内の様々な内部・外部要因とその相互作用を把握することを可能とするツールです。さらに、そのプロセスを通じて理解された自然環境・社会的文脈の中で、自然との最善の共生のあり方を可能とする人間活動の計画行ってゆく、柔軟性の高いツールです。COMDEKSで支援される各地域のプロジェクトでは、このツールを活用してのランドスケープ・シースケープの全体像把握と計画のプロセスを通じて、すべてのステークホルダーを巻き込みつつ、地域の環境と社会にポジティヴな活動の計画と実施、また持続性の確保を目指しています。
さらに当サイドイベントでは、トルコ、カンボジア、コロンビアにおけるCOMDEKS支援プロジェクトの具体事例が紹介されました。
トルコの湿地沿岸地域でのCOMDEKSプロジェクトに従事する市民団体ヨルダ・イニシアティブおよび地中海自然文化連盟(AMNC)のエンジン・イルマズ氏は、マッピング、文献調査、現地調査、そして多くの関係者を集めたワークショップにより、これまでを振り返り、そして今後の計画立案が行われたことを報告。1990年代の状況との比較を可能とする指標の使用例を挙げ、自分たちの環境社会の変化要因を理解するために役立てることができ、継続的なモニタリングおよび将来の意思決定のためにもモニタリング結果をデジタル化していることについて触れました。
UNDPカンボジア事務所のナギン・ナヴィラクは、自国におけるSATOYAMAイニシアティブの実践事例を紹介。地元コミュニティとの協議の上選ばれたストン・シエムリアップ流域ランドスケープに焦点を当て、伝統的稲作、コミュニティレベルでのセービング(共同貯蓄)グループ、気候変動適応型農業など、複数の活動を組み合わせての総合的な成果達成を目指している状況を発表。生物多様性の保全と人々の生計向上が相互に関連していることを強調し、すべてのステークホルダー(利害関係者)が指標作成・計画立案・活動実施・モニタリングのプロセスの各段階に継続的に関わってゆくことが、COMDEKSによるアプローチの中心であると述べました。
UNDPコロンビア事務所のアナ・ベアトリス・バロナは、アンデス山脈のパラモス(高地草原)のユニークな生態系と、それらが国民の3分の1への水の供給源となっている重要性を紹介。そのような重要なパラモスの環境保全をリードする存在としての農村女性の役割に焦点を当て、女性リーダーシップ育成塾や、女性主導のコミュニティ組織の設立支援など、女性のエンパワーメントに向けた取組を紹介しました。さらに、その地域特定の生態学的および社会経済的状況を考慮した、ランドスケープレベルでの活動計画を、地域コミュニティ全体で策定・実施してゆく重要性を強調しました。
閉会の挨拶では、生物多様性条約(CBD)事務局の中尾文子氏が、GBF目標達成には具体的なコミュニティレベルでの活動が不可欠であることを改めて強調。COMDEKSが現地コミュニティ社会全体を巻き込む包括的観点を重視し、陸上と海洋双方の保全と利用に関する多くの優先課題に対応するランドスケープ&シースケープレベルでのアプローチを採用していることを賞賛しました。
*SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム(COMDEKS):
CBD COP15で採択された、2030年までの世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」は、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め反転させることを目標にしています。日本においても、地球の持続可能性の土台であり人間の安全保障の根幹である生物多様性・自然資本を守り活用するための戦略「生物多様性国家戦略 2023-2030」が定められ、自然資本を守り活かす社会経済活動が推進されています。
COMDEKSは、日本の「里山・里海」のように、人間が自然に手を入れて地域の生産活動等に活かしながら自然と持続可能な形で共生することにより、人間の社会経済活動と自然環境の保全・活性化を、ランドスケープ・シースケープレベルで把握・計画しつつ相互補完的に推進(維持・再構築)する活動を、世界各地で支援するプログラムです。
2011年の開始以来、環境省の支援により、SGPの枠組みで世界20ヵ国・216地域で400件ものプロジェクトを支援。2022年のCOP15から、新たな強力な支援者として経団連自然保護協議会を迎え、第4段階(フェーズ4)に入りました。
GBPの野心的な目標達成には、官民の枠を超えたパートナーシップが必要であり、日本の経済界を代表する経団連からの、世界各地の草の根のコミュニティに向けられる自然・生物多様性保全と持続可能な自然資源活用のためのこの大きな支援は、日本経済界の先見性と実行力を象徴するものです。
また、当フェーズではCOMDEKSの支援対象地域でプロジェクト活動成果や環境・生物多様性保全の進捗を測る「レジリエンス指標」も、COMDEKSのパートナー組織である国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)によりアップデートされています。