エンクズル・アルタンゲレル アジア太平洋地域広報スペシャリスト
電気自動車の人気が再上昇 – トップを走るアジア太平洋地域
2022年9月15日
2012年、世界の電気自動車(EV)販売台数は12万台でした。2021年になると、その数は660万台を記録しました。わずか10年で一気に転換が進んだことになります。
最近になって人気が高まったように見える電気自動車ですが、実は驚くほど長い歴史があります。初のEVの生産は、1820年代にまで遡ります。そして1899年には、電気自動車は静かで、有害な排気ガスも少ないという理由から、蒸気自動車やガス自動車よりも高い人気を誇るようになっていました。石油の価格下落もあってEVは衰退を迫られましたが、持続可能な輸送を支え、気候変動に対処できるという可能性の高さから、今では再び注目の的となっています。
EVは各国がゼロ・エミッションを達成するための重要な手段となります。電力源の脱炭素を後押しし、バッテリーの効率を高めるイノベーションがそれに伴うと、特に有効です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、輸送部門から排出される温室効果ガス(GHG)は、2019年の全世界の排出量の15%を占めていました。パリ協定で定められたターゲットを達成するためには、道路交通の電化が欠かせません。鍵を握るこの分野では、EVとクリーン・エネルギーを組み合わせることで、排出量を削減できる最大の可能性が発揮されるからです。
電気自動車の普及がすでに加速していることは、朗報と言えます。2021年だけでも、EVの販売台数は対前年で倍増しました。その普及を支援する規制枠組みと経済的インセンティブは、市販のモデルの多様化とバッテリー価格の継続的な低下とともに、EVへのシフトを実現するうえで大きな役割を果たしました。ほとんどのEVは先進経済国で販売されていますが、低中所得国の中にも、当初の価格の高さや充電インフラの不備、EVの費用対効果に関する一般市民の誤解など、電気自動車の普及を妨げる障壁の排除に取り組んでいる国が多くあります。
国が決定する貢献(NDC)、すなわちパリ協定に基づく各国の気候変動対策の計画は、輸送部門の電化を加速する重要なチャンスとなりえます。アジア太平洋地域では、すでに多くの国が、日本とUNDPの「気候の約束」イニシアチブの支援を受けながら、輸送部門のEモビリティと脱炭素を優先課題として、取り組みを始めています。
- ブータン:ヒマラヤのこの小さな国は、水力発電による豊富なクリーン・エネルギーに恵まれており、すでにカーボンネガティブを実現し、その状態の維持に努めています。ブータンはそのNDCの一環として、エネルギー関連排出量の60%を占める輸送部門のGHG排出量削減を約束しています。同国では、自動車保有台数の急増によって、2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量が3倍以上に増えるという、気がかりな予測も出ています。ブータンが国内でのEV普及を加速させるプロジェクトを最近になって立ち上げたのも、そのためです。それ以前から、タクシー運転手120人以上がすでに、いち早く電気自動車に乗り換えていました。UNDPと日本によるパートナーシップは、この成功を受け、電気自動車の利点に対する認識の一層の向上や、充電スタンドの整備、主要な政府機関へのEV供与に取り組んでゆく予定です。
- ベトナム:同様に、ベトナムのNDCにも、輸送部門からのGHG排出量削減が盛り込まれています。2020年の時点で、4,700万メートルトンに上る輸送部門のCO2排出量は、このままのやり方を続けていけば、2030年までに8,810万メートルトンに増大するものと見られています。ベトナムは、排出量の削減とEVの普及を図るため、EVへのシフトを国民に促す優先融資制度を試験的に採用するとともに、フエ市のゴミ収集車を電気自動車に変える予定です。また、このプロジェクトでは、電気自動車が長期的に環境や健康、経済にもたらす恩恵に対する理解を促進しながら、EモビリティやEVの充電に関する基準を含む、グリーン公共交通に関する国家プログラムも支援してゆきます。
- インド:インドでは、電動モビリティへの移行が政府にとって長年の優先課題となってきましたが、この取り組みはEVの普及とインフラ整備を目的とする「電気自動車早期普及・生産促進政策(FAME)」の第2段階で、さらに強化されています。「気候の約束」は、輸送関連の低炭素最先端技術を特定し、4都市で80か所を越えるEV充電スタンドを整備するとともに、さらに幅広い低炭素経済促進イニシアチブの一環として、輸送部門その他でグリーン雇用を創出することにより、この移行を支援してゆきます。
国際エネルギー機関の予測を見ると、バンやトラック、バスを含めた電気自動車の台数は、2030年までに2億台に達する可能性もあります。野心的な気候変動対策や金銭的インセンティブを導入すれば、その数はさらに3億5,000万台にも達し、グローバルな排出量削減目標の達成にさらに大きく貢献できる可能性もあります。
EVが排出量削減の特効薬ではないことは明らかです。バッテリーのリサイクルから安全性に至るまで、解決すべき問題もまだ残っています。それでも、自動車台数の予測される増加のうち90%は、開発途上国で起きると見られるため、Eモビリティへの投資は適切かつ賢明な対策だと言えます。また、GHG排出量を削減し、人間と地球の健康を守るという視点から見ても、正しい方向に向けた大きな一歩となるでしょう。
編集者注:日本は気候危機を全人類に対する脅威と捉え、UNDPと協力しながら各国の気候変動対策を加速する取り組みを先導しています。
UNDPは2021年、NDCの目標を具体的な行動に移すことを目指す新たなフェーズ「気候の約束:誓約からインパクトに向けて」を立ち上げました。日本はこれに対する最大の支援国として、長年の資金提供パートナーであるドイツ、スウェーデン、EU、スペインおよびイタリア、ならびに、新たなパートナーである英国、ベルギー、アイスランドおよびポルトガルとともに、こうした取り組みの加速を図っています。