タジキスタンの未来に気候変動へのレジリエンスが欠かせない理由

2023年2月16日
Photo: UNDP Tajikistan

2021年5月、タジキスタンは集中豪雨に見舞われ、国の大部分で洪水、地滑り、土砂災害が発生しました。最も大きな被害を受けたのは、30万人以上が住むテバレイ川流域で、激しく流れ出た大水が人々の命を奪い、インフラに大きな被害を与えるという悲劇が起きました。

テバレイ川流域は、タジキスタン南西部のハトロン州にある急峻な丘陵地帯で、森林伐採や過放牧により土壌が緩み、植生が限られた危険な地形となっています。気候変動のインパクトが強まり、極端な気象現象の頻度と影響が増すにつれて、こうした脆弱性が露呈し、拡大しつつあります。その結果、地域のコミュニティは不安定な状態に置かれています。

タジキスタンは、世界の温室効果ガス排出量への寄与はごくわずかであるにもかかわらず、気候変動のインパクトに非常に脆弱な国です。内陸の山岳地帯に位置する低中所得国で、経済が天然資源や農業などの気候変動の影響を受けやすい分野に依存していることも、脆弱性を高めている要因となっています。その一方で、気候変動に伴うリスクや適応策の重要性についての人々の意識は、まだ十分ではありません。

気候変動への脆弱性を減らし、レジリエンス(回復力)を高めるため、タジキスタンは今、必要な財源を確保する必要があります。気候関連の災害がより頻繁に、激しく、予測不可能になるにつれて、大きな経済的損失、人道的な課題、環境悪化が生じる恐れがあるからです。

テバレイ川流域でまた洪水の季節がやってくるということは、壊滅的な事態が起こる可能性が高いことを示唆しています。そのため、国連開発計画(UNDP)は、日本政府の支援のもと、河川流域とその資源の管理を改善し、極端な気象現象の影響を軽減し、危険な状態になるのを防ぐためのプロジェクトを、現地当局やコミュニティと協力して実施しています。

このイニシアティブは、タジキスタンだけでなく、資源が限られ、気候変動のインパクトに脆弱な他の国々にとっても、将来的に必要とされる対策をとるためのロードマップとなるものです。

 

Photo: UNDP Tajikistan
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リスクと脆弱性の評価

気候変動へのレジリエンスと適応能力を高めるための重要なステップは、最大の脆弱性とリスクがどこにあるのかを理解することです。この情報を得ることが、レジリエンスを高めるために適切な対策を講じる際の鍵となります。

テバレイ川流域の多くの地域は洪水や地滑りの危険性があり、早急な対応が必要とされています。UNDPの支援のもと、危険が及ぶ可能性があるエリアと緊急時に利用できる安全な避難所を特定するため、衛星画像を用いてこの地域の詳細なアセスメントが行われました。また、この作業を補完するため、日本で導入されている技術を基に、洪水対策にかかる時間を改善するための早期警報システムの開発が進められています。

 

Photo: UNDP Tajikistan
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統合的で包括的な行動計画の策定

気候危機はさまざまな要素が複雑に関連して起こる危機です。その影響は社会のあらゆる側面に及ぶため、気候危機に対応する方法も同様に、包括的かつ統合的で、インクルーシブ(包摂的)である必要があります。

UNDPは、テバレイ川流域の現地当局が、鉄砲水、地滑り、土砂災害の発生を防ぎ、地域のインフラ、生態系、農業への影響を軽減するための統合管理計画を策定する支援を行っています。この統合計画は、環境、社会、経済の状況を考慮しながら、あらゆる部門にわたって、すべての人間活動と自然資源を一緒に管理することを目指しています。ここで重要なのは、公的機関から民間セクター、地域コミュニティに至るまで、幅広い関係機関が計画の策定過程に参画し、必要な対策について協議の上、合意できるようにしているところです。

また、この計画はジェンダーの問題にも焦点を当てています。これは、女性と男性では気候変動のインパクトに対するニーズや脆弱性が異なるためとても重要な問題です。また、レジリエンスの強化に不可欠な知識や能力についても、ジェンダーによりそれぞれ異なる部分を担っています。

 

Photo: UNDP Tajikistan
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インフラへの投資

気候変動がもたらす課題に対応するためには、レジリエントなインフラを築くことがもうひとつの重要な要素です。

日本政府の支援によるイニシアティブのもと、地域コミュニティのレジリエンスを強化するために、いくつかのインフラ投資が行われています。運河の清掃や洪水防止施設の建設に役立てるための重機が導入されたほか、亜鉛メッキ加工されたワイヤーネットとコンクリートブロックが川の堤防を強化するために配備され、浸食リスクの高い牧草地はこれ以上の浸食を防ぐためにフェンスが設置される予定です。

 

Photo: UNDP Tajikistan
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人々の暮らしを守るために

低炭素で気候変動のインパクトに強い社会を実現するには、「公正な移行」を中心に据えた取り組みが必要です。

テバレイ川流域に住む多くの人々は、水、牧草地、土地、森林などの資源に依存して生活しています。人々が資源を持続可能な形で管理し、地域の長期的な持続可能性についてオーナーシップを持つことは、気候変動による危険やショックに耐えられる強靭なコミュニティをつくるために不可欠です。灌漑と持続可能な農業を実現するため、日本政府の支援による追加の機材も導入されることになっています。

Photo: UNDP Tajikistan

上記4つの柱に基づく活動を行うことで、この地域に暮らす約7万5,000人が安全な住居と農業を中心とした生活の改善による恩恵を受けるだけでなく、鉄砲水や土砂崩れのリスクが減ることで約12万5,000人が間接的に恩恵を受けると予想されています。しかしながら、国内外で同じような状況にある地域に暮らす多くの人々は、依然として災害の危険にさらされているのが現状です。

2021年10月、タジキスタン政府は更新された「国が決定する貢献(NDC)」を提出し、その中で、2030年までに1990年比で無条件に排出量を30〜40%削減するという目標を設定したほか、主要5部門での適応策に関する27の行動ラインを定義しました。これは国内の状況を考慮しながら、低炭素で気候変動にレジリエントな開発への道を開く野心的な目標と言えます。

研究、計画、インフラ、生活への投資を通して、気候変動への脆弱性を減らし、レジリエンスを高めること、そしてそれらの取り組みを継続するために必要な国際支援と資金を確保することで、タジキスタンは目標を達成することができるのです。

 


 

日本政府は気候危機が全人類の脅威であると考え、UNDPと連携して各国の気候変動対策を加速させるようリードしています。

2021年、UNDPは気候変動対策に関して「国が決定する貢献(NDC)」の目標を具体的な行動に移すことを目的とした「気候の約束(Climate Promise)」の新フェーズを開始しました。日本政府はこのフェーズの最大の支援国であり、ドイツ、スウェーデン、欧州連合、スペイン、イタリアなどの長年のパートナー、英国、ベルギー、アイスランド、ポルトガルなどの新たなパートナーとともに、この取り組みを加速させるために参加しています。