世界が脱炭素化に向かう今、アフリカにおける公正なエネルギー転換が優先課題

TICAD8 サイドイベント

2022年10月17日

アヒム・シュタイナー国連開発計画(UNDP)総裁

Photo: UNDP

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)のサイドイベントとして、8月26日にチュニジアにおいてハイブリッド形式でのイベントが開催されました。世界が脱炭素化に向けて進む中、アフリカ大陸がクリーンエネルギーへの公平かつ公正な転換を達成するためには、エネルギーへのアクセスに関する現在の様々な課題を解決することが不可欠であると、イベントのパネリストは指摘しました。

チュニジアの産業・鉱物・エネルギー省とエネルギー管理庁(ANME)がUNDPと共同で開催したこのイベントでは、再生可能エネルギー開発におけるアフリカの可能性と、アフリカ大陸全体の包括的なエネルギー転換を支援するための官民パートナーシップを動員する必要性が強調されました。

アヒム・シュタイナー国連開発計画(UNDP)総裁は、「チュニジアが自国の将来について検討している内容は、世界全体が現在直面している課題を象徴しているため、チュニジアで本イベントが開催されることにはとても意義がある。世界は、世界的エネルギー経済の混乱、脱炭素化への道筋の確立、加えて、多くの国で未だに数億人がエネルギーを利用できず、エネルギー転換について考えることもできないという課題に直面している」と述べ、次のように説明しました。

UNDPによると、調理や暖房のために安全でクリーンな燃料や技術を利用できない人々が世界で26億人存在し、その内、75%以上がサブサハラ・アフリカに住んでいます。さらに、アフリカ諸国は、既に脆弱な状況にあるにもかかわらず、COVID-19の大流行からの回復の遅れやウクライナで進行中の戦争の影響による、エネルギーや食料の価格上昇と戦わなければなりません。

こうした複合的な脅威に立ち向かうため、UNDPは、気候変動が生活に及ぼす悪影響に対処し、雇用を創出する新たな機会を切り開くために、アフリカの公正なエネルギー転換への加速を支援しています。脱炭素化と化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の重要性を強調し、アフリカと国際社会に対し、クリーンエネルギーへのアクセスという短期的な解決策だけでなく、持続可能性につながる長期的な解決策にも焦点を当てるよう促しています。

UNDPは、短期的な視点に立つことで長期的な視点が失われないようにすることが、UNDPの指針であると信じています。私の考えでは、脱炭素化があらゆるエネルギーシステムの将来の原動力であることに疑問の余地はありません。今から5年後には、クリーンエネルギーへの転換が、2015年から2020年にかけての時期よりもさらに速く、指数関数的に進んでいると思います。

すべての人のためのクリーンで安価かつ信頼できるエネルギーへの転換に向けた大規模な行動と支援を促進するための2025年に向けた新しい国連エネルギー行動計画に沿って、UNDPはパートナーと協力して、今後4年間で世界中のさらに5億人がクリーンエネルギーにアクセスできるよう支援していくと、シュタイナーは述べました。

UNDPはアフリカ・ミニグリッド・プログラム(過去最大規模のエネルギー・アクセス・プログラム)を通じて、サヘル地域の国連機関と協力し、18か国で社会経済開発を促進するクリーンで安価かつ信頼できるエネルギーへのアクセスの拡大、及び、再生可能エネルギー・ミニグリッドの財政的な実現可能性の向上を図っています。その中にはUNDPとチュニジア政府がゴミ処理部門をバイオガス源に転換するための開発中のプログラムも含まれます。 世界銀行の分析によると、アフリカは世界の他の地域よりも太陽光発電に適した条件を備えているにもかかわらず、エネルギー供給の大部分は海外からの輸入により賄われており、その多くは化石燃料です。 ネイラ・ヌイラ・ゴンジ チュニジア産業・鉱物・エネルギー大臣は、「アフリカは、クリーンで公正なエネルギー転換を達成するためには、外部のアクターに依存するだけでなく、すべての国民にとって公正で公平なエネルギー転換を促進するために彼らと協働しなければならない」と述べました。

アフナ・エザコンワUNDP総裁補兼アフリカ地域局長は、「世界的に脱炭素化への機運が高まる中、アフリカに注目が集まっています。これは、アフリカの人口が急速に増加していること及びエネルギー資源の潜在能力が非常に高いということだけでなく、アフリカ大陸全体でのエネルギー需要が2040年までに60%増加すると予測され、他の大陸よりもはるかに高い割合だからです。」と述べ、次のように説明しました。

この需要増にアフリカの国や企業がどう対応するかで、昨年グラスゴーで開催されたCOP26での2050年までのネットゼロエミッションに向けた公約がどの程度実現するかが決まります。アフリカのグリーンエネルギー転換における資金面では、現在から2030年までにアフリカが必要とする資金の試算は1.2~2.0兆ドルで、これは2021年のCOP26において「ネットゼロのためのグラスゴー金融連合」が発表した130兆ドルの2%以下です。

電気にアクセスできない人々の75%がサハラ以南のアフリカに住んでおり、調理に薪や炭を使うために毎年60万人のアフリカ人(ほとんどが女性と子ども)が亡くなっていることを考慮すると、化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えることは、環境面でメリットがあるだけでなく、健康面での成果や開発目標達成への見通しを大幅に向上させます。

アフリカの公正なエネルギー転換は、一つの選択肢ではありません。それは必然であり、世界的な要請でもあります。これを達成するために、私たちはクリーンエネルギーへの投資及び金融投資の促進とリスク回避のための取り組みを拡大し、そしてあらゆるレベルでの主体性を高め、市民教育を向上させるプログラムを拡充しなければなりませんとエザコンワは述べました。

 

アフナ・エザコンワUNDP総裁補兼アフリカ地域局長

Photo: UNDP
ファティ・ハンチ チュニジアエネルギー管理庁(ANME)長官は、すべての国のエネルギー転換を促進するための協力とパートナーシップの重要性に焦点を当て、チュニジアのエネルギー戦略の策定と実施を支援する日本の国際協力機構(JICA)やUNDPなどの二国間・多国間の開発パートナーからの支援について延べました。また、ANMEは、2030年までに国のエネルギー消費量を30%削減し、再生可能エネルギーによる電力生産率を35%向上させる計画であること、及び、2050年までにチュニジアの電力需要の80%を再生可能エネルギーで生産する可能性について、現在多くの関係者が研究していることを明らかにしました。

ビクター・ジェン国連工業開発機関(UNIDO)アフリカ部長は、アフリカ全域の公正なエネルギー転換を支援・促進する上でUNDPやUNIDOなどの国際開発機関が果たす役割を強調し、UNIDOの見解として、アフリカにおける経済の多様化と環境の持続可能性を同時に支援する公正なエネルギー移行には、SDG 9、特に「産業活動のための持続可能エネルギー」「持続可能エネルギーのための産業」をより重視する必要があると述べ、次のように説明しました。

アフリカ諸国は経済の多様化、工業化を進め、より技術集約的で付加価値の高い製造業やサービス業に移行すること、伝統的なセクターを近代化し、「グリーン&ブルーエコノミー」の新しい新興セクターに転換することが必要です。しかし、このような構造転換には、質や量の異なる都市エネルギーインフラやデジタル化・インテリジェント化された低炭素エネルギーソリューションへのアクセスが求められます。特に女性や若者が従事している農業、食品加工、漁業など、農村部の主要産業でのエネルギー利用のために、ミニグリッドを含む非集中管理で分散型の再生可能エネルギーを用いた支援を強化しなければなりません。

したがって、UNIDOは各国政府や国際社会に対し、産業用エネルギー効率化や産業用再生可能エネルギーアプローチを対象とした官民連携アプローチや譲許的融資スキームを強化するよう促しています。アフリカの企業は、限られた能力と様々なリスクのために、持続可能なエネルギー投資や技術移転のための専門知識や資金を得ることが依然として困難ですと、ジェンバ氏は述べ、UNIDOのプログラム、Sustainable Energy Industry AcceleratorやIndustrial Deep Decarbonization Initiativeを照会しました。

また、収入と雇用の機会は有望である点を強調し、地域のクリーンエネルギーや資源効率の高い製造・サービス業は、年間2億ドルから20億ドルの追加収益を生み出す可能性があり、これは、電動モビリティ、バイオエネルギー、オフグリッドソーラー、ミニグリッド、風力発電などの分野で、2050年までに合計380万人の追加雇用につながる可能性があると説明を加えました。

ダニエル・シュロス アフリカ開発銀行再生可能エネルギー・エネルギー効率担当ディレクターは、アフリカの膨大な未開発エネルギー資源と、何億人ものアフリカの人々に電力アクセスを提供する緊急の必要性は、何十億ドルもの投資市場を形成していると強調しました。

「アフリカのエネルギー部門には大きな可能性があり、投資に対する見返りも高いため、民間企業がアフリカの再生可能エネルギーへの投資を拡大することを後押しするはずだ」と述べた上で、シュロス博士は、大規模な投資を呼び込むためには、民間部門との連携を強化する必要があり、そのためには良好なビジネス環境が必要であると強調しました。これには、明確で一貫性のある政策、明確な政府計画の枠組み、強固な制度、電力バリューチェーンとプロジェクトサイクル全体にわたってすべてのソリューションを統合する官民介入の一連の流れが重要な要素になると説明しました。

イベントのまとめとして、レイモンド・ギルピンUNDPアフリカ戦略・分析・調査部チーフエコノミストは、アフリカは多様であり、エネルギーの文脈も国ごとに異なるため、エネルギー転換についても、画一的ではなく、各国の状況に合わせた「様々な転換」を議論するべきだとパネルに注意を促しました。

ギルピンは、公正なエネルギー移行は、エネルギー部門にとどまらず、不平等への対処、雇用の創出、工業化の促進など、さまざまな効果をもたらすと述べた上で、公正な移行が社会にこれらの利益をもたらすためには、制度や規制の枠組みを整備することが重要であると強調しました。 「アフリカ大陸のエネルギー転換は可能であり、資金調達も可能です。今回のようなイベントは、これを実現するために賢明で持続可能な方法を考えるのに役立ちます」と、ギルピンは締めくくりました。 パネリストは、アフリカがクリーンエネルギーへの公平かつ公正な転換を実現し、大陸全体における人々の生活の質を向上させるためには、共通の目標達成への志を高めることが急務であることに同意し、アフリカのエネルギー不安への対応をより迅速に行うことを誓いました。