アフリカにおける女性と少女の司法へのアクセスを向上するためには戦略的なパートナーシップが鍵に

TICAD8サイドイベント開催報告

2022年10月17日
Image: UNDP

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)のサイドイベントにおいて、パネリストたちは、政府、市民社会、国際機関の取組による進展はあるものの、依然として、女性や少女たちは司法へのアクセスにおいて多くの課題に直面している、と指摘しました。

国際協力機構(JICA)が2021年度に実施したアフリカにおける司法アクセス向上に関する調査では、多くのアフリカ諸国における法の支配に向けた改革は依然として進んでおらず、社会から取り残された人々が排除、差別、極度の貧困に対して非常に脆弱な状態におかれていることが明らかになりました。

JICAガバナンス・平和構築部長の宮崎桂氏は、「今回の調査結果から、多くの国で裁判所が比較的少なく、主に都市部に集中していること、また、訴訟費用が高いため、紛争解決のために裁判所に訴訟を起こせる市民の数が限られていることが分かった」と述べました。当該調査報告書によると、文化的慣習が非公式の紛争解決システムに影響を与えることが多いことを示し、女性の人権に関する問題、特にジェンダーに基づく暴力(GBV)にもっと注意を払うよう呼びかけました。宮崎氏は、JICAとUNDPの協力のような戦略的パートナーシップが、女性やその他のぜい弱な人々のための司法を改善し、持続可能な開発目標(SDGs)、特に法律と司法における女性の積極的役割を促進するSDG ゴール5を総合的に実現するために不可欠であると強調しました。

また、パネリストからは、COVID-19、気候変動による緊急事態、経済的・政治的不安の高まりという重なり合う危機の影響が、ジェンダー平等への進展を逆行させたと指摘がありました。

「このような重大なコストを伴う後退を避けるために、私たちは危機からの復興という短期的な目標と変革という長期的な目標の橋渡しをするための取組を拡大する必要があります。具体的には、コミュニティの回復力、社会正義、参加型の意思決定に投資を行うことです。」と、UNDP総裁補兼危機局長の岡井朝子は指摘。女性のための平等な司法の実現に向けた取組は、開発に対する人間中心のアプローチを採用するUNDPの「持続可能な平和と開発のための法の支配、人権、司法及びセキュリティに関するグローバルプログラム」の中核をなすものです。「女性のために、そして私たち全体の未来のために、私たちは事後的に対応することから予防することへと習慣を変えなければなりません。つまり、脆弱性をもたらしている根本的な原因に取り組み、強靱性を高め、人々と国家の間の社会契約を強化することが必要です」と岡井は述べました。

2015年に国連加盟国が採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、ジェンダー平等とすべての女性と少女のエンパワーメントの達成に2030年という期限が設定されました。しかし、その期限まで残り10年足らずの今、世界はこの目標の達成に向けた軌道に乗っていません。

パネルディスカッションのモデレーターを務めたUNDPアフリカ地域サービスセンター・ガバナンス・平和構築調整官のロゼリン・アコンベ博士は、司法への女性の参画を増進することは、人々を中心としたガバナンスを実現するための基本であると指摘しました。

モザンビーク司法研修所長のエリサ・サミュエル・ボーグカンプ判事は、モザンビーク北部で女性や少女に対する人権侵害が続いていることを考えると、本イベントは時宜を得たものであると述べました。ジェンダー平等のための司法は、グッドガバナンスを推進し、法の支配に基づく社会と持続可能な平和を実現するための重要な要素であるにもかかわらず、裁判官の数では女性の参画の程度の低さが顕著である、とバーグキャンプ判事は指摘しました。同判事は、ジェンダーの多様性の重要性を強調し、裁判所に多様な関係者がいることは、異なる声や視点を法廷にもたらすだけでなく、司法の健全性を強化し、ジェンダーの固定観念をなくし、女性の権利行使の意欲を高める効果がある、と述べました。さらに、「女性の裁判官の存在と女性の司法アクセスの保障なしに法の支配を語ることはできません」と述べ、ジェンダー平等を裁判システムの政策やプログラムに組み込み、全ての裁判所職員にジェンダーに配慮した研修を強化することが有効である、と付け加えました。

ケニアのNGO、KASH(Keeping Alive Societies' Hope)のプログラム・リーガル・オフィサーであるステファン・オグナ氏は、司法部門への女性の有意義な参画を訴え、法律や規則の策定へのコミュニティの参画拡大を図るためには、市民社会が重要であることを指摘しました。「議会が一部の国民にしかこのような議論に参加する機会を与えないのは残念なことです。ケニアは、憲法で市民参加の重要性を謳っているにもかかわらず、市民参加のための法律をまだ成立させていません。その結果、女性の権利を侵害する多くの法律が成立しているのです」、とオグナ氏は述べました。市民社会組織は、市民中心の参加を率先していくことで、女性にコミュニティ、国、国民議会の各レベルにおける意思決定に参加する平等な機会を提供することができるため、政策議論や法律制定過程においてより大きな役割を担う必要がある、そうすることにより、政府のアカウンタビリティを監視する上で女性が効果的な役割を果たすことができる、とオグナ氏は強調しました。

KASHは2003年に発足し、EUの資金提供を受けたUNDP/Amkeni Wakenya PLEADプログラム等を通じて、ステークホルダーに働きかけ、重要で社会の周縁に位置する人々が司法、保健、グッドガバナンス、経済的なエンパワーメントのためのサービス等にアクセスできるよう働きかけることを目的としています。

アフリカの女性のための正義を推進するために、変革をもたらす人間中心のアプローチを適用するには、女性の権利と参加を阻害や妨害している各国特有の障害に関する十分なデータ、情報、分析も必要です。

ケニア高等裁判所の弁護士でカバラク大学ロースクール副学部長のルシアナ・テュオ氏は、女性が司法制度に参入する際の障壁は大きく3つに分けられると指摘しました。それらは、女性の紛争解決能力に関するステレオタイプや否定的な認識、女性を裁判官に任命する政治的意思の欠如、司法に対する世間の風当たりを和らげるために行われる最小限の任命などです。

アフリカの司法システムへの参画を公平なものとし、女性の全面的な参加を促すために、テュオ氏は、司法の場にいる女性たちに、有能な女性の候補者を積極的に探し、裁判官の職に応募するよう勧めてほしい、と述べました。さらに、裁判官として成功したロールモデルをハイライトすることは、否定的な固定観念を打ち消すのに役立つ、組織的な課題や暗黙のジェンダーバイアスを特定し、対処するためにジェンダー監査を実施することが重要である、等と述べました。 JICAはまた、アフリカ諸国において司法アクセスの向上と関係機関間のネットワークの構築に関する調査を実施し、女性の司法アクセス向上に対する障壁と機会の両方を特定し、これらの問題やその他の司法問題に対処するための地域協力と知識の共有の重要性を強調しました。 アフリカにおける女性のエンパワーメントと司法へのアクセスを支援するJICAとUNDPの共同イニシアティブは、戦略的な知見を共有し、ギャップを特定し、共通の目標達成に向けた協力の機会を創出するために重要である、とパネリストは賛同しました。