ガザでの戦争が7カ月目に入り、パレスチナ全土で新たに174万人のパレスチナ人が貧困に追い込まれると国連推計

UNDPとESCWAは、パレスチナの人間開発指数が初めて算出された2004年記録の水準を下回り、20年以上後退すると推定

2024年6月10日
Photo: Abed Zaggout/ UNDP PAPP

アンマン・ニューヨーク発 – 国連開発計画(UNDP)と国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)の新たな推計によると、ガザでの戦争が7カ月目を迎えようとしている今、パレスチナの貧困率は悪化し続け58.4%に達し、新たに174万人近くがさらに貧困状態に追い込まれています。また、国内総生産(GDP)は戦争前の2023年の水準と比べ26.9%もの大幅な下落となり、損失は71億米ドルにのぼりました。

UNDPとESCWAは5月2日、「パレスチナにおけるガザ戦争の社会・経済的影響に関する予測」を発表しました。これは、パレスチナとガザにおける戦争が及ぼした影響を、戦争開始からの3ヶ月間について合同で推計した初期迅速評価(2023年11月に発表)の最新版です。今回の最新版推計では、戦争開始から6ヵ月後の影響を推計し、さらに7ヵ月後、8ヵ月後、9ヵ月後の影響も予測しています。

「この戦争が続く限り、現在も、そして中長期的にも、日々、ガザ住民とすべてのパレスチナ人は莫大かつ複合的な犠牲を強いられることになります。初期評価時と比べ、今回の新しい数値は、戦争が終わってもガザの苦しみは終わらないことを警告しています。かつてない規模で命が失われ、資本が破壊され、そして短期間で貧困が急増することで、来るべき世代の未来を危うくする深刻な開発危機が引き起こされるでしょう」と、アヒム・シュタイナーUNDP総裁は述べています。

予測によると、仮に戦争が9ヶ月間継続する場合、貧困率が2倍以上(戦争前の2.25倍となる60.7%)に増加し、新たに貧困に追い込まれる人の数は186万人以上に達する中、GDPは29%減、損失総額は76億米ドルに上る見込みです。評価ではまた、UNDPがまとめたウェルビーイングの指標である人間開発指数(HDI)の急激な低下にも警鐘を鳴らしています。パレスチナの人間開発は、HDIが初めて算出された2004年よりもさらに遡り、20年以上も後退する可能性があります。

「これまでの戦争とは異なり、今日、ガザではかつてない規模と範囲で破壊が進んでいます。家屋、生計手段、自然資源、インフラ、組織的能力が失われるとともに、今後数十年間にわたって、システム全体に対し深刻な影響が生じる可能性があります。このたびの評価では、ガザは1948年以来は見られなかったほど大きな規模で外部からの支援に完全に依存することになり、機能する経済、生産手段、自立、雇用、貿易能力を失うことになります」と、ESCWAのローラ・ダシュティ事務局長は述べています。

今回のUNDP-ESCWAの最新の推計は、世界銀行と国連が先日発表した「合同中間被害評価」の結果を補完するもので、2024年1月時点でガザの建築インフラに与えた直接的な被害額は約185億米ドルにのぼり、これは2022年のパレスチナ国のGDP総額の97%に相当します。

今回の推計は、アラブ諸国地域の主要な国連機関の責任者が一堂に会し、パレスチナにおける国連国別チームの取り組みを地域のさまざまなアクターがどのように支援するのが最善かを議論する会合で発表されました。UNDPは早期復旧に関する主導機関として、国連機関や各国のパートナーと緊密に協力し、ガザと東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区で、状況が許す限り、遅滞なく早期復旧を開始するための計画と準備を進めています。


編集者へのメモ

GDPと貧困の推計値

6ヵ月後

  • パレスチナのGDPは25.8%減、69億米ドルの損失。
  • 貧困*は人口の26.7%から57.2%へと114.2%増加。
  • 貧困人口は約146万人から313万人へと167万人増加。

7ヵ月後

  • パレスチナのGDPは26.9%減、71億米ドルの損失。
  • 貧困は人口の26.7%から58.4%へと118.7%増加。約146万人から320万人へと174万人が貧困に陥る。

8ヵ月後

  • パレスチナのGDPは27.9%減、74億米ドルの損失。
  • 貧困は人口の26.7%から59.5%へと122.8%増加。約146万人から326万人へと180万人が貧困に陥る。

9ヵ月後

  • パレスチナのGDPは29.0%減、76億米ドルの損失。
  • 貧困は人口の26.7%から60.7%へと127.3%増加。約146万人から332万人へと約186万人が貧困に陥る。

* 国際貧困ラインの計算に基づく - 2023年と2024年の基準値における戦前の予測GDPとの比較

失業率の推計

  • 今回の最新データでは、パレスチナ全土の失業率は、戦後1カ月が経過するごとにさらに0.5ポイント上昇すると推定している: 46.1%(6ヵ月後)、46.7%(7ヵ月後)、47.2%(8ヵ月後)、47.8%(9ヵ月後);
  • 戦争前のパレスチナの失業率は25.7%。ガザはすでに45%の「超失業率」と闘っており、若者の失業率は60%近くに達していた。国際労働機関(ILO)は、2024年1月31日の時点で、ガザで20万1,000の雇用が失われると推定。

人間開発指数の推計

人間開発指数では、予想される平均寿命の減少、予想就学年数の減少と国民総所得の減少の推計をもとに、6、7、8、9月後の4つのシナリオでパレスチナ国のHDIを算出した。

パレスチナ

  • 6ヵ月後:パレスチナ国のHDIは大幅に低下し、2022年の0.716から0.677になる。パレスチナの人間開発は2007年レベルまで17年間、後退する。
  • 7ヵ月後:HDIは0.667に低下。(2006年レベルまで18年間、後退。)
  • 8ヵ月後:HDIは0.657まで低下し、20年後退する(パレスチナでHDIの記録開始の2004年の水準まで)。
  • 9ヵ月後:HDIは0.647に達し、20年以上、人間開発が後退する可能性がある。HDIが2004年から2010年の間に観測されたのと同じ割合で平均的に成長していたと仮定すると、今回の推計では23年分後退し、2001年に計算された水準に相当する23年で後退すると推定される。

* ガザとヨルダン川西岸の個別のHDI値は、サブナショナル・データを使ってシミュレートされ、著しいばらつきを示している。

ガザ

  • ガザについては、4つのシナリオのいずれもが、人間開発を20年以上後退させる。これは、パレスチナのHDIが最初に記録された2004年よりも前の水準であり、戦争の月日が経過するごとに、その衰退は深まるだろう。
  • HDIが2004年から2010年の間に観測されたのと同じ割合で平均的に成長していたと仮定すると、今回の推計では、比較の目的でのみ、以下のシナリオを推定している。
  • 6ヵ月後:HDIは0.598まで低下し、2022年の0.705と比較すると、人間開発は33年後退する(1991年の推定水準)。
  • 7ヵ月後:HDIは0.582に低下し、37年後退する(1987年の推定水準)。
  • 8ヵ月後:HDIは0.566に低下(1984年の推定水準)。
  • 9ヵ月後:HDIは0.551に達する可能性があり、進歩は44年後退する(1980年の推定水準)。

ヨルダン川西岸

  • 6ヵ月後:HDIは0.702に低下し、2022年の0.720と比較すると、人間開発は12年後退する(2012年の水準)。
  • 7ヵ月後:HDIは0.697に低下し、13.5年後退する(2011年の水準を下回る)。
  • 8ヵ月後:HDIは0.687に低下し、14年後退する(2010年の水準)
  • 9ヵ月後:HDIは0.677に達する可能性があり、16年の後退となる(2008年の水準)。