2023年8月、国連開発計画(UNDP)と東京外国語大学は、エチオピアにおける和平支援とDDRに関するシンポジウムを共催しました。このシンポジウムでは、特にDDRの重要性に焦点が当てられました。
エチオピアにおける元兵士の武装解除、動員解除、社会復帰を支援
2023年11月7日
約2年に渡る紛争の後、2022年11月2日にエチオピア連邦民主共和国政府とティグレイ人民解放戦線(TPLF)との間で「恒久的な停戦を通じた持続可能な平和協定(COHA)」がプレトリアで調印されました。この合意は、ティグレイ州を含む紛争影響地域のアファール州とアムハラ州における平和、安全、安定への礎となるものです。
こうした背景を受け、2023年8月、国連開発計画(UNDP)と東京外国語大学は「エチオピアにおける和平支援とDDR(武装解除・動員解除・社会復帰)に関するシンポジウム 〜早期平和実現の有益性:「成功か挫折か」」を共催しました。専門家たちが武装解除、動員解除、社会復帰(DDR)の緊急性について議論し、エチオピアと他の地域におけるDDRに関する教訓を共有しました。
シンポジウム冒頭では、UNDP総裁補兼アフリカ局長 のアフナ・エザコンワが、エチオピアの平和と開発に対するグローバル・コミットメントを強調し、日本の長年に渡るアフリカの平和と安定への支援を称賛しました。また、社会的、経済的、政治的な発展に対する平和の重要性を強調し、エチオピアの豊かな文化と歴史から、同国の安定がアフリカの角地域全体に影響を及ぼし、そして世界の平和にとって不可欠であると述べました。
また、駐日エチオピア大使のダバ・デベレ・フンデ氏は、日本が担う開発パートナーとしての重要な役割、特に経済協力における役割を強調し、DDRプログラムの実現に協力が必要であると訴えました。
国家復興委員長のテショメ・トガ氏は、TICADが日本とアフリカ諸国との有益な協力とパートナーシップを促進する貴重なプラットフォームであることを強調し、エチオピアのDDRについて次のように説明しました。「元兵士と被災コミュニティに早期の平和をもたらすことは、恒久的な平和の達成に不可欠であり、元兵士の社会復帰を促すことに繋がります。エチオピアのDDRは、経済的支援、所得向上のためのトレーニング、心理社会的カウンセリングなどを特徴としています。日本がその一翼を担うことで、エチオピアが世界におけるDDRの成功事例となる可能性があります。」
UNDPエチオピア常駐代表のトゥルハン・サレは、平和の重要性と同国が担うアフリカの角地域における安定の役割を強調しました。「エチオピアはすでに、構造的、経済的、政治的、人口動態的、環境的な変遷を経験しています。UNDPは、人命救助から人命の維持・確保へと移行することに全力を注いでいます。エチオピアは、国際社会が今後のDDRの機会に注目し、学ぶべき成功例になり得るのです。」と強調しました。
続くパネルディスカッションでは、ティグレイ地域の紛争について解説を担当したNHK解説委員の出川展恒氏が司会進行を務め、各登壇者はDDRに関する見解を述べました。
東京外国語大学の名誉教授である伊勢崎賢治氏は、アフガニスタン、シエラレオネ、東ティモール、フィリピンのミンダナオ島など、UNDPが関与していた様々な紛争地域でのDDRに関する自身の経験を共有し、エチオピアのDDRについて、特に安全保障セクター改革(SSR)からの分離について考慮が必要であると述べ、平和と正義のバランスの必要性や、平和の達成は常に正義の追求と一致しないことを強調しました。
JICAエチオピア事務所長の森原克樹氏は、南スーダンでJICAの無償資金協力により建設されたナイル架橋の例を挙げ、治安情勢の関係で何度も中断に見舞われながらも10年に亘り支援を継続した結果、人々が平和を実感できるインフラが完成し、今では平和の象徴として地元住民にフリーダムブリッジと呼ばれていることを紹介しながら、国際的な関係者が平和と安定の実現のために長期的な視点を持って一貫して関与し続ける必要性を強調しました。
サレは、多くの元戦闘員が若い世代であり、ティグレイ地方では約20%が女性と推定されることを強調しました。性的暴力やジェンダーに基づく暴力の課題を提起し、元戦闘員の学校復帰を支援する必要性をアピールしました。また失業した若者の多くが最終的に戦闘員になる可能性があることから、雇用創出が極めて重要であると強調しました。
DDRの取り組みがどのように成功するかについて、伊勢崎名誉教授は、DDRの成功を測定したり定義したりすることは難しく、DDRの結果は極めて多様であり、長所と短所が共存することもあるため、結果を単純な成功か失敗の二分法で説明するのは難しいことを強調しました。
またシエラレオネで、元戦闘員の社会復帰に成功した一方で国家建設が失敗したことを一例として紹介し、DDRは単独で取り組むのではなく、安全保障セクター改革(SSR)と連携して行うべきであり、プロセスに関与する全ての利害関係者が必要であると強調しました。
最後に、エチオピアへの投資やDDR後のビジネス機会について、森原氏は、エチオピアで新しいビジネスを始めたいと考える日本企業が増加していることを強調し、「エチオピアからのビジネスの成功事例が増えるにつれ、日本の民間セクターから、今後エチオピアにより多くの注目が集まると信じています。」と述べました。