人間の安全保障〜持続可能な開発を推進するための日本の避雷針〜
2022年7月21日
新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックはまだ終わることなく、世界の多くの場所で人命や生活を奪い続けています。同時に、世界では1946年以降、最も多くの暴力的紛争が発生し、故郷を追われた人の数は最多を記録しています。その原因の一つともなっているウクライナでの戦争は、甚大な人的被害をもたらすのみならず、世界的な食糧、エネルギー、そして財政危機をもたらしています。その結果、今日、世界は、私たちが生きている時代の中でも最悪の生活費高騰という危機に直面しているのです。
UNDPが先日発表した報告書によると、世界の食料とエネルギー価格の高騰を直接的な原因として、過去3ヶ月間で新たに7100万人が貧困に陥りました。それと同時に、気候危機もますます悪化しています。
来日したアヒム・シュタイナーUNDP総裁は、岸田文雄内閣総理大臣をはじめ、政府関係者や民間セクターのパートナーとの会談の中で以下のように述べました。
「我々の世界は複合的な危機の嵐にさらされています。そんな中、『恐怖からの自由』『欠乏からの自由』『尊厳をもって生きる自由』と定義される人間の安全保障の概念は、それらの危機の克服や持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて我々を導く灯火となってくれるでしょう。」
2022年初頭にUNDPが発表した「人間の安全保障に関する特別報告書」によると、人間開発が急速に進み、健康や豊かさ、教育のレベルは過去と比べて最も高い状況にあるにもかかわらず、世界の7人に6人が不安を感じていることが明らかになりました。これは新型コロナ感染症発生以前の時点においての数字であり、低所得国でも高所得国でも同様の傾向が見られました。
人間の安全保障は、1994年にUNDPが発表した『人間開発報告書』で初めて示されたアプローチであり、理論的な概念ではありません。日本は長年、この考え方を外交政策、および世界各国におけるUNDPとの連携の柱に据えて推進してきました。
シュタイナー総裁は、林芳正外務大臣との会談で、昨今、危機に襲われた国々に対する日本による時宜を得た最前線での支援を称えました。また、訪日中の全ての面会で、シュタイナー総裁は、安倍晋三元総理が痛ましい事件により急逝されたことに対して深い哀悼の意を表し、特に人間の安全保障など、元総理の開発に対する長きにわたる多大なる支援に対して深い謝意を表しました。
日本は過去数十年にわたり、人間の安全保障の概念を世界中で実践してきました。その中には、2002年以降、日本がアフガニスタンの復興に積極的に取り組んできたことも含まれています。UNDPは、人間の安全保障を最優先テーマとして掲げ、開発緊急援助取り組みのための地域密着型アプローチ(ABADEI)戦略への支援の一環として、現在、アフガニスタンの弱い立場にある人々に対して、水やエネルギーなどの生活必需品やサービスの提供、地域市場の活性化、新しい生計機会の提供を支援しています。
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてからは、日本は直ちに人道支援への呼びかけに応じ、UNDPが行う地雷・不発弾の除去とがれき撤去活動のため、450万米ドルを拠出。世界でもいち早く支援を決めた国となりました。これらの支援は、食料や医薬品などの重要な人道支援物資の安全な輸送を可能にし、人間の安全保障の実現に資するものです。また、同時に、損壊した、もしくは倒壊の危険性がある建物や、不安定な建物が地域住民に脅威をもたらす中、その対応への一助ともなりました。
健康は人間の安全保障の中核をなすものです。そんな中、日本はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の普及に大きく寄与しています。UNDP、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)そして日本のパートナーシップは、顧みられない熱帯病、結核、マラリアに対処するための研究開発や、革新的な保健技術に投資しています。UNDPに対する日本の支援は、開発途上国がワクチンやモバイル医療サービスの展開を促進し、医療情報へのアクセスを強化するための最先端のデジタルツールの導入にも役立っています。
まもなく迎える第8回アフリカ開発会議(TICAD8)では、人間の安全保障が最も必要とされる場所で、いかに行動を起こすことができるかを知るあらたな機会となります。 シュタイナー総裁はUNDP・JICA特別フォーラム「人間の安全保障とアフリカの挑戦 ― TICAD8に向けて」で以下のように述べました。 「この瞬間にも、ソマリアでは25万人近くが差し迫った飢餓の危機にさらされています。このような状況において、最も困難な状況にある国々が最も大きな負担を強いられているのです。まもなくTICAD8が開催され、日本がG7議長国となります。さらに2022年内に発表される予定のUNDPの『人間開発報告書』では、人間の安全保障の概念をさらに活用する方法を探ります。これは、世界が開発上の欠陥を突き止め、気候変動対策などの重要な分野で連帯を高めるのに役立つでしょう。」
日本はさらに、持続可能な開発に対する新しいグローバルなアプローチを展開しています。岸田総理は官民連携を強化し、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」を実現するための「新しい資本主義」を打ち出しました。
この考え方に沿って、シュタイナー総裁は、日本の民間セクターを牽引する人々とともに、「企業・事業体向けSDGインパクト基準」に関する初の研修コースを開始しました。このSDGインパクト基準研修は、UNDPが展開するSDGインパクトという取り組みにおける、最新の画期的な道しるべとして、事業者や投資家にSDGsを達成するための新しい知見とツールを提供するものです。日本の民間セクターは、サステナビリティとインパクト創出のためのマネジメントをいかに事業のパーパスと意思決定の中核に据えられるか、いかに事業への「付け足し」としてではなく事業運営の核へと転換できるか、そのことがいかに大きな利益をもたらすか、その実証に貢献することになります。
シュタイナー総裁はUNDP・JICA特別フォーラム「人間の安全保障とアフリカの挑戦 ― TICAD8に向けて」において、次のように語りました。「SDGsを達成するためには、自然の真の価値を考慮した、目的に適った開発モデルが必要で、それは脱炭素、気候行動、環境の保全、そして全ての人にとっての新しい機会の上にのみ成り立つものです」