東日本大震災の教訓を生かし続けるアジア太平洋の国々:その現状

小野裕一・東北大学災害科学国際研究所副所長・教授

2024年3月10日

インドで実施した津波避難訓練の様子

Photo: UNDP India

私が初めて津波について学んだのは42年前、中学校の地理の授業でした。三陸沿岸に到達する津波は、複雑な海岸の地形によってその高さを増し、大きな被害をもたらすという先生の話を、今も鮮明に覚えています。TVアニメの「未来少年コナン」でも、急に引き波があってから、巨大な津波が襲うというシーンがあったことを記憶しています。こうして子どもの頃に学んだことを、私は決して忘れないでしょう。 

東日本大震災が起きてから、今年で13年になります。多くの人々の命を奪う大災害でした。私は2年前、World Bosai Walkを企画しました。東日本大震災から10年を迎えたことを機に、福島県いわき市から青森県八戸市まで、800kmを40日かけて歩くというイベントです。私はその途中で、地域の人々による復興への取り組みをつぶさに拝見するとともに、家も家族も、そして普通の生活もすべて失った遺族の方々からもお話を聞きました。そのお話は悲痛なものであると同時に、感動的なものでもありました。深い悲しみの中でも、しばしば他人に手を差し伸べることにより、生きる力を取り戻したという方々が多くいたからです。例えば、私がお会いした70歳の女性は、震災で娘を失いました。一時は自殺も考えましたが、生き残った4歳の孫の世話をすることに、新たな生きがいを見出したということでした。遺族の方々にお会いして、そのお話を聞くことで、私は大きな感銘を受けました。その教訓は今も大きな意味を持っています。今年の元旦には、能登半島地震で津波が発生し、日本では13年ぶりに大津波警報も発令されました。

「津波のおはなし絵本」シリーズ5作目となる「津波の被災地をめぐる旅」は、「アジア太平洋地域学校津波対策プロジェクト」のパートナーである東北大学の小野裕一教授が東日本大震災の被災地を訪れ、出会った人々から津波に遭遇した経験や震災からの復興に関するストーリーを聞いた物語

国連開発計画(UNDP)は今年、日本政府の支援により、アジア太平洋地域の津波対策と意識の向上を図るため、津波対策プロジェクトの第4フェーズを立ち上げることになりました。 

ここまでの3つのフェーズでは主に、対象となった学校やコミュニティでの津波避難訓練の実施を重視してきましたが、真の意味で現状を変えるためには、その対象範囲を広げる必要があることに気づきました。よって今年は、すべての学校やコミュニティが津波のリスクを軽減し、津波が起きた時の安全性も高められるよう、アジア太平洋地域の諸国が津波対策を国内政策に取り入れるための支援を行っていきます。 

また、地域的な津波早期警報戦略も策定し、域内のあらゆる人が津波早期警報システムによって保護されるよう支援します。私たちの地域的な津波早期警報戦略は、2022年3月にアントニオ・グテーレス国連事務総長が発表したグローバル・イニシアチブ「すべての人に早期警報システムを(EW4All)」の達成にも資するものです。 

2004年のインド洋津波は、域内の多くの国に壊滅的な被害を及ぼしました。今年でインド洋津波から20年になりますが、その記念行事(2024年12月26日に予定)は、津波がもたらしかねない破壊と、一般市民の津波に対する意識と備えの重要性を改めて鮮明に思い起こさせる機会となるでしょう。インド洋津波の直後、アジア太平洋地域での津波対策には実質的な改善が見られたものの、近年は津波の危険性に対する注目度と危機感がともに薄れています。私たちは東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携し、この20年という節目を活用しながら、これから起きる津波の影響に効果的に対応し、これを軽減するための手段として、津波対策への関心と一般市民の意識を再び高めようとしています。 

UNDPはその過程で、東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)の世界的にも著名な津波専門家と密接に連携していきます。私たちの集団的な取り組みが、アジア太平洋地域の津波対策と意識の実質的向上につながることを期待して止みません。 


このブログ記事は、UNDPバンコク地域センターのパン・スイン津波プロジェクト第4フェーズ・プロジェクトマネジャーが執筆を補佐しました。