ヴィクトール・アポロ 国連開発計画(UNDP)ケニア事務所アクセラレーター・ラボ、ソリューションマッピング長
金融アクセスキャンペーンはなぜ持続可能な生活を促進できないのか: ケニアの若者に対する金融包摂のケーススタディ
2021年10月12日
新型コロナウイルスのパンデミックはケニアの若者における生計手段の喪失を加速させ、失業率の悪化を引き起こしました。コロナ禍以前、20~24歳の若者は、他の年齢層と比較して、労働市場における不利な影響を強く受けていました。2019年12月における若者の失業率は14.2%で、母集団の失業率4.9%の2倍を超える割合でした[1]。新型コロナウイルスに関連した廃業やソーシャルディスタンスの確保、外出制限は人々に影響を及ぼし、なかでも若者は最も強い打撃を受けました。世界各国の政府が家庭やビジネスにおけるパンデミックの影響を最小限に抑えるための財政的・金融的安全策を模索する中、ケニア政府もまた安全策を打ち立て、2020年3月25日の大統領演説の中でその概要が説明されました[2]。
金融資産および社会的資産へのアクセスは、若者が自身で経済的意思決定を行い貧困から脱却することへの支援を模索する上での重要なファクターです。若者に対する金融サービスの提供は、それが安全な場所の確保であれ、企業や教育における投資のための適切な構造を持った融資であれ、起業家精神と資産の構築を促し、持続可能な暮らしを強化させることができます[3]。こうした利点にもかかわらず、ケニアの金融部門深化局(FSD)は、18~25歳の人の23%は金融サービスから排除され、また発展途上国において特に若年層をターゲットとした金融サービスを提供する者はほとんどないと予測しています。世界においては、若者[4]が銀行口座を持つ傾向は大人に比べて33%低くなっています。
「金融アクセスと社会的包摂」キャンペーンの開始
COVID-19への対応として国連開発計画(UNDP)が行う、より包括的でマルチセクターな対策は、若者が率いる零細・中小企業が利用可能なリソースや能力を活用できるようにするためのエコシステムのつながりを発展させることを目指しています。これは、UNDPケニア事務所が日本政府による資金提供を受けて若者のための企業開発基金(YEDF)と連携し、金融教育とあわせて金融サービスに対するアクセスの強化を図り、若者の失業者1,000人を経済的自立へと導くことを目標にしたキャンペーンを行っていることが背景になっています。
YEDFは、ICT・改革および若者担当省の下で運営される国営企業です。同基金は、社会の柱の下におけるVision 2030の主力プロジェクトの一つです。その戦略的焦点は企業開発を重要な戦略として定めており、経済的機会の増加とケニアの若者の国づくりへの参加を高めることを目指しています。同基金は、起業家精神と、若者が求職者ではなく雇用創出者となることの奨励を通して、若者のための雇用機会を作り出すことを目標としています。そして、「ビジネスの開始または拡大を目指す若者に対する容易かつ手頃な金融支援・ビジネス開発支援サービスの提供」によって、これを促進しています。
このキャンペーンは「金融アクセスおよび社会的包摂キャンペーン」と名付けられ、YEDFの金融サービスへの申請数が最も少ない5つのカウンティ(マルサビット、タナ川、トゥルカナ、ワジール、バリンゴ)をそのターゲットに定めました。これらのカウンティは、Comprehensive Poverty Report 2020において「多次元的な貧困を抱えている」として格付けされたカウンティでもありましたこのキャンペーンを通して、これら5つのカウンティの若者におけるYEDFサービスの普及率の低さを調査を実施し、低所得の若者に対する持続可能な金融サービスや製品の設計の高い可能性が確認されました。
課題のマッピング
金融包摂の課題を実生活において目に見えるものとして明確化し、解釈可能なものとし、次にその決定的要因に対する共有の理解を深めるために、若者とともに課題マップ演習を行いました。この演習は、金融包摂の課題に対する取り組みにおいて可能性のあるレバレッジ・ポイントを特定することを目的としたものです。上の図は、マルサビット・カウンティにおけるYEDFのサービスの普及率の低さを形成するものとして若者が挙げた主要素を表しています。
YEDFによるサービスの利用率の低さに寄与する要素としてその他に挙げられた理由には、識字レベルの低さ、状態の不安定さ、部族主義、(孤児などに対する)保証人の不在、初期融資額の低さ、返済能力がないことによる融資への不安、YEDFチームの人手不足による広大なカウンティの網羅不能(特に田舎や遠隔地に住む経済的弱者である若者に対して)、また起業家精神に関する訓練の機会が稀であることなどがありました。
若者の金融包摂を強化するための金融サービスの共同創成
金融包摂に対する上記のような障壁を、この課題における性別による特徴に注目しながら考えると、どのような場合にも通用する解決策というものは存在しません。周辺にいる若者、フィンテック分野を含む金融機関、教育的環境、民間部門および開発関係者による共同の努力が、若者のための責任ある持続可能な金融サービスを確保するためには必要です。
UNDPのアクセラレーター・ラボは、人々と政府、そして民間部門と協力して21世紀のための開発を再考する新しいサービスです。これを促進するため、当ラボは、「ユニコーン」(複合的な問題に対して単一のソリューションに投資すること)の追求から離れて、複数の解決策を並行して考慮できるようにするための可能性のある解決策を取り揃えることを目指します。さらに当ラボは、地域にある現実に即した既存の解決策から学ぶことを優先しています。デジタル・ローンサービスの増加を経験したケニアの活気あふれる金融工学(フィンテック)スペースの良い面と悪い面から教訓を得ることは、この適例となるでしょう。
金融包摂システムのソリューション・ポートフォリオ
UNDPアクセラレーター・ラボは、他のアクセラレーターとは異なり、単一の解決策を取ることに焦点を当てるだけでなく、その代わりに可能性のあるソリューション・ポートフォリオを試験することに取り組んでいます。ポートフォリオには複数の解決策が含まれ、それぞれの解決策には課題に取り組むための異なる戦略を活用しています。以下の図は、低所得の若者のための金融包摂ソリューションとして適切な複合物を提供できるのはどのような組み合わせであるかを導き出すポートフォリオの姿を示した例です。このポートフォリオ・アプローチは、前出の課題マップ演習によって特定された多様な要素を考慮して、さまざまな実験から得られた学びの多角化を図ることに焦点を置いています。
全体として、アクセラレーター・ラボでは、このポートフォリオの輪から抜け落ちた可能性のある他の要因から見た幅広い視点を歓迎します。私たちは、いくつかの情報源によってより多くのアクターが金融包摂の課題に対する理解を深め、若者のための新たなソリューションを開発し、より包括的な意思決定を促進できると信じています。このアジェンダに対して知識をお寄せいただける場合は、acceleratorlab.ke@undp.orgまでご連絡ください。
[1] UNDP Strategic Policy Advisory Unit (SPAU). (2020). Kenya’s Youth and COVID-19: What are the Possible Policy Options? Kenya. Issue No: 6/2020
[2] https://www.theelephant.info/documents/pres-uhuru-kenyatta-presidential-address-of-25th-march-2020-on-covid-19/
[3] https://www.un.org/esa/socdev/documents/youth/fact-sheets/youth-financial-inclusion.pdf
[4] The United Nations, for statistical purposes, defines ‘youth’ as those persons between the ages of 15 and 24 years, without prejudice to other definitions by Member States.