UNDP、報告書「アフリカでの借入金コストの低減」日本語版を発表

専門家を交えた討論では、クレジット・レーティングの格差と日本の投資機会が強調されました。

2023年9月12日

パネルディスカッションの様子

Photo: UNDP Regional Bureau for Africa

国連アフリカ経済委員会の分析によると、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには、毎年1兆3000億米ドルをアフリカ大陸に投資する必要があます。一方、アフリカ諸国が貿易や無償資金協力で受け取る金額では、これらの投資をまかなうことはできず、アフリカがSDGsを達成するためには、毎年2000億米ドルが不足していると推定されています。また、中所得国になりつつあるアフリカ諸国では、多額の譲許的融資(無利子またはごく低金利での融資)を受けられない国が増えており、多くのアフリカ諸国が借金をせざるを得ない理由の一つとなっています。主要な格付け機関がアフリカ諸国の信用格付けを決定しており、その格付けは、各国が債務に対して支払う金利や、借入国に流入する資金の量に影響を及ぼすことになります。

国連開発計画(UNDP)がブルッキングス研究所と共同で発表した新しい報告書「アフリカにおける借入コストの引き下げ」は、アフリカ諸国の信用格付けにおけるいくつかの特異性を指摘しています。本報告書では、これらの特異性がアフリカの開発資金調達に与える影響を、3つのグローバル格付け機関による格付けと、トレーディング・エコノミクスのアルゴリズムによる、より客観的なランキングによる格付けとを比較することで推定しました。分析の結果、信用格付けの特異性によってアフリカ諸国が支払った代償の総額は、超過利息で280億米ドル、資金調達の損失で460億米ドルと推定され、これはマラリア患者を90%削減するコストの2倍以上に相当します。

今夏、報告書を監修したUNDPアフリカ局チーフエコノミストのレイモンド・ギルピン来日に合わせて、日本版政策提言報告書の発表会が開催され、NHK解説委員室解説副委員長の二村 伸氏による司会のもと、AAIC(アジア・アフリカ・インベストメント&コンサルティング)の代表取締役社長/代表パートナーである椿 進氏、独立行政法人国際協力機構(JICA)審査部長(ウズベキスタン事務所長)の宮崎 卓氏を迎え、主にアフリカ諸国における開発資金調達のための借入コストの問題について議論が交わされました。

「報告書で明らかになった重要な点のひとつは、世界の格付機関3社がアフリカ諸国に付与した信用格付けと、トレーディング・エコノミクスのアルゴリズムが生成した信用格付けとの間の格差でした。」オープニングで、UNDP駐日代表のハジアリッチ秀子は、アフリカの投資機会に与える信用格付けの影響について説明しました。

「金利や投資の流れに影響を与える厳しい格付けに加え、貿易からの収益が低いため、アフリカ諸国は投資資金の調達に苦労しています。また、報告書の提言には、格付け手法の透明性向上、標準化された代替格付けの利用、格付けプロセスにおけるアフリカ諸国への支援強化、全アフリカ諸国を対象とした新たなデータプラットフォーム、戦略的アドバイザーからなる協議会の設立などの必要性が含まれています。より多くの投資を実現するためには、十分な情報に基づいた意思決定プロセスが必要です。」と、ギルピンは強調しました。   

宮崎氏は、アフリカ諸国の債務に関する課題について、世界的なインフレ率と債務対GDP比という2つの観点から説明し、今回のレポートの特徴として、格付けにありがちな破綻リスクへの過度なフォーカスとは対照的に、基礎的要因にフォーカスしている点が特に興味深い、と指摘しました。  

続いて椿氏は、少なくともプライベート・エクイティ投資家は格付けについてはあまり考慮せず、むしろ個別企業のビジネスモデルや経営陣を重視しているとの見解を示しました。また、投資家のアフリカに関する知識不足も指摘しました。  

議論は、地域の格付機関と世界の格付機関との比較という話題に移り、ギルピンは、「大手格付け会社の格付け手順を補完する有意義なデータを提供することで、結果として各国のリスクをより正確に反映させることに貢献できる可能性は大いにあります。人口統計のような伝統的な情報源以外のデータへの参照を増やすなど、データ収集プロセスにおける創造性を高める必要性があります。そのためには、地域当局と格付け機関の効果的な協力が必要になります。」と結論づけました。

これに加え、宮崎氏はデータの不備について言及し、「より多くのデータを収集するための潜在的なコストを認識しつつも、生産性向上のためにデジタル技術を活用するべきです。」と提案しました。  

議題は、アフリカへの日本の投資家の誘致に移り、椿氏は、ケニアで広く使われているモバイル送金システムM-PESAが、貴重な市民データの供給源となる可能性について簡単に触れました。また、日本の投資家を効果的に惹きつけるためには、成功した投資事例が必要不可欠であると述べました。

ギルピンはさらに、借入れがアフリカ諸国の財政に負担をかけないようにする重要性を強調し、アフリカ諸国が手頃な価格で融資を受けられるようにするために、日本が果たすべき役割を提案。「アフリカの問題を世界的な課題として認識し、アフリカ大陸のビジネス環境を改善することが重要です。リスクの少ない、予測可能なビジネス環境は、より多くの投資を引き寄せ、アフリカ諸国の信用履歴を構築するのに役立ちます。また、アフリカ諸国の未開発の潜在能力を認識し、重要な分野への投資を戦略的に行うことで、アフリカ諸国は持続的な信用履歴を築く基盤を築くことができるでしょう。」とギルピンは強調しました。

最後に、アフリカ諸国におけるUNDPや世界銀行などの国際機関の存在意義と、これらの機関からの借入れによって期待される成果についての質問に対し、ギルピンは、グッド・ガバナンスの責任は政府だけにあるのではなく、社会全体に及ぶものであると強調し、これらの機関が予算編成プロセスに積極的に参加し、債務融資プロジェクトの影響を細心の注意を払って監視していくことが重要であると述べました。

 

(左から右)宮崎卓氏、レイモンド・ギルピン、ハジアリッチ秀子、二村伸氏

Photo: UNDP Regional Bureau for Africa

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