アフリカの持続的な平和と安定には、政府と市民の信頼の強化が不可欠

TICAD8サイドイベント開催報告

2022年10月16日
Photo: UNDP

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)のサイドイベントにおいて、アフリカの紛争影響地域においてレジリエンス(強靭性)を構築し、恒久的な平和と安定を達成するには、政府と市民の間の信頼を強化することが不可欠であることが強調されました。

国際協力機構(JICA)とUNDPの共催で行われたこのサイドイベントでは、脆弱な国や暴力の影響を受けている国において、紛争を解決し平和を促進するための能力を構築する仕組みを導入することなどが話し合われました。

冒頭、モデレーターのヘンリー・ボンス氏(アナウンサー/メディアコンサルタント)は、世界各地で平和の構築と維持に向けた努力が続けられている中、このイベントはまさに時宜を得たものであると述べ、次のように説明しました。「世界が争い、分裂、不安定さを経験する中で、国内外の関係者は、丁寧で建設的な「タテ」(政府と住民の間)と「ヨコ」(住民と地域社会の間)の対話の価値を再認識し、信頼を築く必要がある。これはアフリカの文脈で強靭性を築くために、これまで以上に必要となっている。」と指摘しました。

UNDPによると、アフリカにおいて非国家主体が関与する国境を越えた紛争が急増しおり、また、脆弱な国に加えて、かつては安定していた国でも暴力的紛争が勃発しているため、これまで積み上げた開発の成果が大きく失われ、脆弱な人々の暮らしに悪影響が及んでいます。

UNDP のアフナ・エザコンワ 総裁補兼アフリカ局長は、紛争の性質が変化しているとした上で、アフリカ大陸の一部では、民主化が脅かされており、これは、最近のクーデターや大統領の任期延長、選挙での騒擾など、不穏な動きが相次いでいることで、住民の国に対する信頼が低下していると述べ、さらに、社会から疎外されたグループの発言権が乏しいこと及び女性や若者が社会に組み込まれていないことが、この問題を悪化させていると付け加えました。

このような背景から、UNDPは国境地域でのアプローチにおける必要不可欠な要素として信頼構築を推進してきました。例えば、「アフリカにおける暴力的過激主義の防止と対応」プロジェクトでは、紛争の根本原因に対処するための開発アプローチを適用し、24か国においてコミュニティ内および地域住民と国家機関との間の縦方向および横方向の信頼回復に重点を置いています。さらに、日本政府の支援を受けて、アフリカ局ボーダーランド・センターがサヘル地域のリプタコ・グルマ地域で「平和と定着のための国境貿易」プロジェクトを実施し、国境を越えた平和構築、包括的繁栄、社会統合の推進に貢献しています。

JICAの室谷龍太郎ガバナンス・平和構築部平和構築室長は、アフリカの紛争影響地域における、強靱な国家と社会づくりのための開発協力機関のアプローチについて、JICAは、現地のコミュニティが、さまざまなショックを跳ね返せる能力と強さを構築する支援を行っていると述べ、コートジボワール、シエラレオネ、ナイジェリアにおける協力事例を取り上げました。

コートジボワール内務治安省のヤピ・ウルバン地方開発局長は、2011年の選挙後の争乱以降、人々の信頼関係が崩れ、同国の発展プロセスにブレーキがかかったが、政府による政治対話、社会対話などの交流の枠組みを設け、信頼回復に努めていることを紹介しました。そのコートジボワールの中部・北部地域を対象に、JICAは、政府とコミュニティの「タテ」の信頼関係を向上させるため、実証に基づく計画策定手法を導入するプロジェクト「中部・北部紛争影響地域の公共サービス改善のための人材育成プロジェクト(PCN-CI)」を実施しています。また、首都アビジャンでも「大アビジャン圏社会統合促進のためのコミュニティ強化プロジェクト(COSAY)」を実施しています。

シエラレオネ政府は、JICAとともに地方行政官によるガイドラインに沿った地域開発事業実施能力の向上に取り組んでおり、地域社会から信頼を得られるように行政システムの構築を目指しています。アルシン・ジョアケ地方自治・地域開発省次官は、JICAやUNDPとのパートナーシップにより、地方行政機関と市民との対話が促進され、政府は強靭さと市民からの信頼を得られるようになったことを紹介し、「勝者総取り」の政治文化を課題として認識するようになったと述べました。

ナイジェリアでは、北東部開発委員会(NEDC)が、JICAとUNDPの支援を通して、政府が地域住民に効果的なサービスを提供するための能力強化と地域社会のエンパワーメントも目指した支援を行っています。NEDCのモハメド・G・アルカリ長官は、「暴力的過激派による激しい反政府活動によってコミュニティ間の不信感が高まっている北東部では、JICAとUNDPとのパートナーシップによる取り組みが、社会の結束を促す上で重要である。」と述べました。また、日本での研修を通して、1945年の原爆投下後の広島の復興プロセスが重要な教訓として北東部にも適用できると強調しました。

UNDPの報告書「ナイジェリア北東部における紛争が開発に与える影響の評価」は、現在の開発への投資不足に対処しなければ、北東部の紛争によって2030年までに110万人の命を失うことになると警告しています。

紛争解決の専門家であり、平和構築の実践者であるレオニー・アベラ氏は、紛争影響国のコミュニティ・レベルでの信頼構築の方法について、生計向上活動を取り入れた地域レベルの包括的平和対話が、コミュニティと政府機関の良好な関係を回復し、信頼と国家の正統性、安定を強化することにつながると指摘しました。

UNDPの「アフリカにおける暴力的過激主義の防止と対応」プロジェクトでは、コミュニティ内および地域住民と国家機関との間の「タテ」と「ヨコ」の信頼を回復することが中核となっています。

南アフリカは、国と国民の間の「タテ」と「ヨコ」の信頼を再構築することの重要性を熟知している国です。ヴァス・ゴウンデンACCORD事務局長は、アパルトヘイトが終わった直後の信頼構築の成功例について、最初のステップは旧政権と現在の与党アフリカ民族会議政府との話し合いであったと述べ、その結果、信頼が構築されたと説明しました。

また、ゴウンデン事務局長は、平和の配当を社会に行きわたらせ、アフリカ大陸の持続的な平和を構築するためには、紛争の緩和と開発を同時に実現する必要があることを強調しました。

ACCORDは、アフリカ大陸において紛争がもたらす課題に対して革新的な解決策を生み出すために、アフリカ全域で活動する市民社会組織です。

チュニジア出身の2015年ノーベル平和賞受賞者、ウイデッド・ブシャマウイ氏は、包括的な国民対話の重要性を強調し、チュニジアの例を引き合いに、指導者に対する不安や不信感の高まりに対して、政治家は市民社会との包括的な国民対話において、女性や若者が発言することが重要であると訴えました。

パネリストは、それぞれに、国の強靭性と正統性を強化し、持続可能な平和をもたらすために、コミュニティと政府当局が定期的に対話し、協働することが極めて重要であるとの認識を共有しました。

最後に、JICAの加藤隆一上級審議役が、各パネリストが、地域レベルの取り組みが人々のエンパワーメントや社会的結束につながった事例を紹介したことに謝意を表し、JICAが今後ともUNDPとともにアフリカの強靭性を高め、平和と安定を達成するために人間の安全保障アプローチを推進していくことを強調して、イベントが終了しました。


本イベントの録画は以下にて視聴いただけます