北京宣言から30年

ジェンダー平等に向けた闘いはなぜ終わらないのか

2024年12月2日
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Graphic: Shutterstock

私の10代の子供たちが青年期に差し掛かっている今、私たちの男女平等に向けた今までの闘いの進歩を振り返ると、もどかしさと失望を感じずにはいられません。女性解放運動が始まってから数十年が経ちますが、私たちは未だ、何世代も前から存在する課題と格闘しているばかりか、新たな逆風や脅威がジェンダー平等に立ちはだかっています。今日の多くの女性にとっての現実は、数十年前と変わらず、危険で不公正なものです。

1995年に開催された第4回世界女性会議(北京会議)はジェンダー平等と女性と女の子のエンパワーメントに関する先見的な青写真を示しました。その重要な宣言の一つは、すべての女性が虐待や差別、恐怖から解放されることを保証するために、女性への暴力を撤廃するというものでした。しかし、この革新的な合意から30年の節目に近づく中、私たちはその合意の実現のための進歩が(よく言っても)遅いという厳しい現実と向き合わなければなりません。

ジェンダーに基づく暴力は、教育や雇用などを含む構造的な要因に対処しない限り解決しません。

  • あらゆる社会の進化の支柱の一つは、教育です。世界の多くの地域で、女性は未だに基礎的な教育を受けることに苦労しています。ユニセフによると、1億2200万人の女の子が学校に通えておらず、そのうち3400万人が初等教育、8700万人が中等教育を受ける年代です。男女の格差は脆弱性、紛争、暴力に影響される国々でより大きくなっており、それらの国々では、女の子は男の子より学校に通えない可能性が2.5倍高く、中等教育レベルでは約90%高くなります。
  • 多くの産業、 特に将来の経済にとって重要な科学・技術・工学・数学のSTEM分野に関する産業では、特にリーダーシップ・レベルでは、女性が十分に活躍できていません。女性は昇進や能力開発の機会から見放されやすいのです。その結果として、女性は変化と繁栄を駆動することはおろか、将来の経済成長から取り残されてしまいます。UN Womenがまとめた資料によると、女性は閣僚の23%を占めます。この変化の割合では、最高の権力地位におけるジェンダー平等は今後130年の間達成されないという計算になります。
  • リーダーシップにおける女性の存在は、非常に重要です。なぜなら、女性が意思決定の役割を担うことで、気候変動や生物多様性の成果が向上し、ガバナンスに対する信頼が高まり、経済的利益がもたらされるからです。しかし、世界の環境セクターの大臣のうち、女性はたった7人に1人です。また、特に都市環境の観点では、都市デザインの決定における女性の限られた参画は、都市における男女の不平等を悪化させてしまいます。2022年に、私はARUPと共著のレポート、Cities Alive: Designing Cities That Work for Women の発行に参加しました。このレポートでは、女性は公共の場でのセクシャル・ハラスメントの被害にあい、イギリスの18−24歳の女性のうち97%がこういった経験をしていることが明らかになりました。また、世界の女性の3分の1が清潔なトイレへのアクセスを欠くなど、適切な施設を利用することができない現状も示しています。
  • 家庭内暴力はジェンダー不平等の最も極端な形態の一つであり、毎年数えきれないほどの女性の命を奪い続けている沈黙の伝染病とも言えるものです。#MeToo運動のような社会的な運動の盛り上がりがこの問題を明るみにしましたが、認知度が上がる一方で、女性に対する暴力の割合は下がっていません。ジェンダーに基づく暴力(Gender-based violence: GBV)は、紛争時でも平常時でも、重大な人権侵害です。それは個人やコミュニティに深く耐え難い傷を残すことになります。2023年に、紛争で殺害された女性の割合は2倍になり、報告された紛争に関連した性暴力の件数は50%増加しました。同年、問題解決のための努力にも関わらず、50以上の和平プロセスにおいて、女性の割合は全交渉官の10%にも届きませんでした。
a group of people holding a sign

パプアニューギニアでは、UNDPが警察と村の裁判所と共に、ジェンダーに基づく暴力の被害者の保護強化に取りんでいる。

Photo: UNDP Papua New Guinea

家の中から始まる

私は、女性の金融的・経済的な自立を確保することがGBVとたたかうための最も有力な方法の一つだと強く信じています。家族法、相続、財産権における法的な制約によって、女性が自立し、貯金し、自己の財産を築くための能力が制限される可能性があります。UNDPは、資源、機会、権利の経済的格差に対処するための「エクアノミクス(EQUANOMICS)」 (Equality(平等) + Economics(経済))として知られるアプローチを追求します。

私たちは、ジェンダー平等シール (Gender Equality Seal)」によって、女性が直面する職場での障害を取り除くことも目指しており、この活動によって、29カ国の100の公共機関がジェンダーに基づく暴力とセクシャル・ハラスメントを一切容認しないゼロ・トレランス・ポリシーを掲げました。「ジェンダー平等戦略2022-2025」に従い、UNDPは開発と危機対応業務にGBVの視点を取り入れています。

パプアニューギニアでは、UNDPが警察と村落の裁判所と共に、紹介経路や判例管理を強化し、計画と予算形成のための管理データを向上させるために政府機関やパートナーを支援しています。この活動は、2030年までに女性と女の子に対するすべての形の暴力を終わらせるために、UN WomenとUNFPA、UNDP、UNICEF、ILOが行っている「スポットライト・イニシアチブ 」として知られる、2017年に始まったEUと国連間連携の一部です。

UNDPは90以上の国でGBVを終わらせるための活動しています。私がセルビアにいた頃、暴力的なパートナーから逃げた女性が人生を再構築するためのシェルターを訪れました。10年以上もの間、UNDPセルビア国事務所は家庭内暴力への対応を強化し、生存者を助けるために警察や社会福祉、検察制度をサポートしてきました。#ItsMyBusiness (#TiceMeSe) 運動では、初年に100万人以上に届き、目撃者に家庭内暴力を通報するよう勧めました。私はこの運動をサポートするため、ベオグラードで初めてハーフマラソンを走りました。家庭内暴力による死者の70%以上が声を上げられなかった女性であったように、助けを求めることから女性を妨げていたスティグマが存在しますが、この運動はそのスティグマを解消する助けになりました。私がセルビアにいた頃、現代の子供を脅かす新たな陰湿な暴力の形であるオンラインのいじめによって、テクノロジー分野のリーダーだった若い女性が悲劇的な自殺を行ったことを目撃しました。私はUNDPを代表して、インフルエンサーと検察、活動家を結びつけ、オンライン暴力に関する最初の議論を主催できたことを誇りに思っています。今年、この運動は、内務省と国営放送RTSが匿名通報システムを促進するまでに拡大し、コミュニティがより安全な環境を構築することを推し進めています。

投資の必要性

投資の劇的な増加なしには、各国は女性と女の子に対する暴力を失くすという2030年までのSDGsのターゲットを達成できません。生存者の多くは、加害者から離れた後でも、暴力に苦しみ続けています。世界的なデータが警鐘を鳴らしています。2023年だけで、5万1,100人の女性がジェンダーに基づく暴力の犠牲者となっており、これは10分に1人の女性が殺されていることを意味します。世界全体の4分の1の国だけがジェンダー平等のための財源を管理するためのシステムを所持しており、女性と女の子に対する暴力を防ぎ、対処するためにはより多くの資源が必要です。

毎年実施されている「ジェンダーに基づく暴力と闘う16日間の活動」は、女性に対する暴力撤廃の国際デーである11月25日に始まり、人権デーである12月10日まで行われます。今年のUNiTE運動のテーマである「北京宣言と行動綱領の30周年に向けて: 団結しよう。女性への暴力を終わらせるために (UNiTE to End Violence against Women)」は、ジェンダー平等と生存者のための正義、女性のエンパワーメントに対する投資が緊急に必要であることを強調しています。