世界で紛争が激化する中、いかに人権を守るか

暴力を防ぎ、平和の基礎を築くことは可能

2024年12月10日
two women with buckets on their heads standing in front of water tank

違反行為に早期に対処することで、暴力を防止し、恒久的な平和の基礎を築くことができる。

Photo: UNDP Sierra Leone

人権デー」を迎えるにあたり、紛争の影響を受けた国々で出会った一人一人に思いを馳せます。彼女、彼らは家、コミュニティ、公共の場で残虐な暴力に耐えてきた人々です。

それら多くの人々が、想像もできないほどのトラウマに苦しんでいます。 

ガザ、スーダン、ウクライナをはじめ、これらの地域での紛争・戦争が命を奪い、家族を離れ離れにし、数百万の基本的人権を脅かすペースは、恐ろしく、そして非道なものです。ソマリアからミャンマー、アフガニスタン、イエメンに至るまで、他にも世界で多くの紛争が起こっており、男性、女性、子どもに関わらず厳しい損失と窮乏を強いています。 

紛争と暴力の中、人々は毎日生き延びることに集中しています。 

しかし、彼らは、残りの私たちと同じように、家族の健康と尊厳、子供の教育と幸福、繁栄、コミュニティの結束など、願望や野心も持っているのです。 

我々の仕事は、それらの人々が平和的に復旧と復興を進めるために必要な条件を整える支援をすることです。 

残虐行為の温床としての紛争 

ひとたび暴力が勃発すると、人権侵害が拡大します。市民は無差別攻撃や強制避難、性暴力のターゲットになります。 

私は最近エチオピアで、母親であり、暴力がエスカレートした2年に及ぶ紛争の元戦闘員でもあるサラさん*に会いました。 

サラさんは現在、平和への道を選択し生きています。UNDPとパートナーの支援で、彼女は社会復帰を目指しているのです。 

彼女は紛争に定義されない生活を送るためのスキルを再び学ぶことが必要になります。このプロセスの重要な部分は、経済を復興させ、より良い未来への希望だけを胸に故郷への道を歩んでいるサラさんのような女性のための雇用を創出することです。 

また、社会的結束を再び築くために、制度を再構築し、法の支配を強化しなければなりません。そうすることで、サラさんや他のコミュニティメンバーは、安全に生活し、働き、家を持ち、健康である権利などの基本的権利を確保することができます。 

彼女のストーリーは特別ではありません。私は今年ウクライナ、南スーダン、シリア、ミャンマーを訪れ、それぞれの場所でサラさんと同じような境遇にあった人の話を直接聞きました。紛争によって人々の権利が侵害され、苦悩が深刻化する話を。 

ガザでは、たった一年の間に、43,000人以上の人々が殺害されました。さらに、数え切れないほど多くの人々が負傷し、家も仕事も失い、次の食事さえままならない状況に晒されています。 

アントニオ・グテーレス国連事務総長はこの状況を「今起こっていることは、人類の道徳的汚点」と表しました。 

スーダンでは、2023年4月に紛争が勃発して以来、1100万人以上が強制的に避難させられ、恐ろしい権利侵害が国全土で報告されました。報告には、性暴力やジェンダーに基づいた暴力の増加と犯罪発生の疑惑も含まれていました。 

これらの地域で、暴力と関連する重大な人権侵害が長く続けば続くほど、コミュニティが回復するのが難しくなります。 

暴力に対する警告 

私たちは、戦争・紛争時に人権侵害が増えることを知っています。一方、人権侵害が暴力を引き起こすという証拠もあります。世界銀行の調査によると、恣意的な拘束、拷問、超法規的な殺害を追跡する「政治的テロ指標」が一段階下がるごとに、内戦のリスクは2倍以上になります。 

国連と世界銀行による報告書「平和への道」によると、拷問、政治的監禁、強制失踪などの行為で人権を尊重しない政府を持つ国では、暴力的紛争のリスクが高いという結果がでています。意思決定への有意義な参加がないこともこのリスクを高くします。 

こういった関連性は世界的に広く認識されています。この傾向を理解することは、それ自体が強力なツールとなります。 

Woman in hijab with two young girls

社会的結束を再構築するために、制度を再建し、法の支配を強化しなければならない。

Photo: UNDP Syria

暴力予防への青写真 

暴力に早期に対処することで、暴力を防ぎ、平和の基礎を築くことが可能です。 

暴力のパターンを監視する早期警報システムは、暴力の勃発を回避するのに役立ち、国内の人権機関のような監視機関の能力を強化します。同様に、長期的な苦悩に対処し、平等を推し進め、差別を確実に撤廃することは、持続的な平和に必要な包括性を高めます。このサポートが効果的であることは証明されています。 

ナイジェリアでは、UNDPは国連人権高等弁務官事務所と国家人権委員会と協力し、人権侵害に関するリアルタイムデータを提供する「人権ダッシュボードと監視所 (Human Rights Dashboard and Observatory)」を開発しました。この監視所は人権データの透明性とアクセス性を向上させ、ステークホルダーが侵害に対して効果的・効率的に対処し、必要な人々を支援することを可能にしています。 

暴力のサイクルを断つ 

司法も紛争解決のためには必要不可欠です。真実和解委員会、被害者への補償、加害者の訴追は和解を促進し、将来の虐待を抑止します。国際刑事裁判所のような国際団体も非常に重要である一方で、暴力に影響されるコミュニティ特有の苦悩に対処する上では、現地の仕組みも同じくらい重要となります。ハイチにおける残虐犯罪の不処罰をなくすために、UNDPとOHCHRは、人権・司法・治安機関や市民社会組織(CSOs)の能力を強化し、被害者の救済権を促進し、 国際人権基準に沿った司法制度における保護措置を提唱しました。 

54人の女性を含む全160人の裁判官、警察捜査員、法律扶助局の弁護士が、重大な人権侵害の犯罪化と、説明責任と被害者・目撃者の支援に焦点を当てた犯罪捜査と起訴を改善する新たな手続きに関する新刑法と刑事訴訟法について研修を受けました。 

予防への呼びかけ 

人権侵害は紛争の前兆でも、結果でもあります。したがって、人権保護は倫理的な義務であるだけでなく、世界の安定性のための実用的な戦略でもあります。 

尊厳、正義、平等が守られる社会を作るにあたって、政府、ビジネス、市民社会、そして個人それぞれに役割があります。 

人権機関を強化し、アカウンタビリティ・メカニズムを確立し、人権擁護者を支援することによって、とりわけ紛争や危機において、私たちは平和と繁栄、そしてレジリエンス(強靭性)のための基盤を築けるのです。

人権を守ることは私たち全員の責任です。 


*仮名です