スリランカの伝統的な水管理システムが、乾燥地域の気候変動レジリエンスを高めるヒントに

2024年10月22日
A woman farmer tending crops in a green field

生態系を活用した、スリランカに古くからある水圧力システムを活用することで、灌漑や飲水の供給、農業の強化を同時に実現しました。

Photo: UNDP Sri Lanka

スリランカの首都コロンボから北に車で5時間移動すると、そこは空気が乾燥し、太陽が全てのものを焦がす様相です。この、いわゆる『乾燥地帯』は、スリランカの農業の中心地であり、ゆえに、地域に住む人々はたった一つの最も貴重な資源である水を頼りに生活しています。 

数十年もの間、農村に住む人々は干ばつを終わらせる雨を望んで空を見つめるか、洪水によって台無しにされた収穫物を見て嘆き悲しんできました。昨今の、連鎖的で破壊的な社会的影響をもたらす気候変動は、多くの世代の農村コミュニティーを貧困と借金の連鎖に巻き込んでいます。この地域の農民に話しかけると、水の話題は避けられません。 

国連開発計画(UNDP)とオックスフォード貧困・人間開発イニシアチブ(OPHI)が共同で発表した、最新の多次元脆弱性指数(MVI)のレポートが、スリランカの人口の半分以上の1,230万人(55.7%)が多次元脆弱性を経験しているという、厳しい現実を示しています。国土の3分の1以上の土地では、水へのアクセスがないことが、日常的な苦悩を意味します。この影響は『乾燥地帯』にとって喫緊な問題であり、『乾燥地帯』の農村コミュニティーは日々の最低限のニーズを満たし、生計を立て、資源として自然を保全することに苦労しています。 

いつもこうだったわけではありません。スリランカの『乾燥地帯』は、独自の水管理システムによって栄えた文明が形成された場所でした。そのシステムとは、交互に訪れる雨季と乾季を管理するための伝統的な灌漑ネットワークです。その複雑な『カスケードシステム』と呼ばれる灌漑ネットワークは貯水池をつなぎ、コミュニティーと環境とのデリケートなバランスを保っていました。このシステムのおかげで、この地域は農業ハブとして繁栄したのです。

Aerial view of water reservoir

昔ながらの灌漑システムの再生は、スリランカの”乾燥地帯”の脆弱なコミュニティでの気候リスクに対処するための、自然を活用した、その地域に根ざす手法です。

Photo: UNDP Sri Lanka

しかし、過去2世紀の間に、システムの放棄や劣化によって、この繊細なバランスが崩れ、水の流れを阻害し、悪化する気候変動の影響に農村コミュニティーがさらされてしまいました。過度な耕作や不適切な土地利用、森林の排除などの非持続的な農業手法によって、『乾燥地帯』の環境は深刻に悪化しました。このような行動が自然の水サイクルを阻害し、土の栄養を減らし、かつて活気にあふれていた風景を蝕み、悪化する気候変動の影響に対するコミュニティーの脆弱性を高めてしまいました。今日、現地の人々は生活や健康、食の安全について無数の困難を抱えており、気候変動へのレジリエンスは今まで以上に重要です。 

では、解決策は何でしょうか? 

緑の気候基金 (Green Climate Fund)からの資金協力で実施している 「気候レジリエンス総合水管理プロジェクト(CRIWMP)」は、自然を活用し、地域に根ざす手法を活用した、『乾燥地帯』などの脆弱なコミュニティーの気候リスクに対処するためのプロジェクトです。UNDPの支援を受けながら、スリランカ政府が、ミー川とヤン川、マルワツ川の三つの流域で伝統的な灌漑システムの再生を行ないました。 現在、プロジェクト開始から7年が経ち、その成果が表れています。プロジェクトは男性・女性、若者の参加を促し、コミュニティーを活用した手法が取られした。これによってコミュニティーが意思決定のアクティブパートナーとなり、自分自身の発展の主導権を握るよう働きかけることができました。

生態系を利用した手法を採用することで、このプロジェクトは『カスケードシステム』を再生し、同時に灌漑の強化や飲水の供給、農業と生物多様性をもたらす自然の強化を実現しました。この手法は、自然と生活のデリケートなバランスを再び調和させ、レジリエントで持続性のある、コミュニティーが気候変動に対応することを促すモデルを生み出しています。

汚染物を捕えるための流域の森林再生や貯水池の堤防再生、放水路、水門、運河、保水量を増やすための貯水地の浚渫など、持続可能な水のチャンネルを再生することで、このプロジェクトは水管理を向上させ、地下水の涵養を促し、生態系の劣化を縮小させました。気候レジリエントなインフラと気候に適応できる農業、気候情報サービスをつなげることで、年間を通した水へのアクセスと、現在と将来の困難に対してのより良い備えが保証されます。

プロジェクトのインパクトは水供給という目的を遥かに超え、健康状態を改善し、農業生産性を高めるという効果をうみ、2023年には前年と比べて農家の収入が75%上昇しました。この効果はさらに波及し、経済的機会の拡大や女性のエンパワーメント、バリューチェーンの発展、民間セクターの参画促進などの成果につながっています。

UNDP Sri Lanka Resident Representative Azusa Kubota talks with residents of the Dry Zone

UNDPスリランカ常駐代表の久保田あずさがスリランカの”乾燥地帯”の住民と話す様子

Photo: UNDP Sri Lanka

このプロジェクトの強みは、適応性とコミュニティー主導の手法であり、取り組みを多様な文脈で、より拡張可能かつ効果的なものにしています。また、これはより広範な気候レジリエンスと開発イニシアチブのための青写真でもあります。地元では"wew gam pubuduwa" (直訳すると、貯水地と農村の再生)として知られているこのイニシアチブは、その名にふさわしく、地域全体の子ども、若者、女性、障害者の生活に変革をもたらしてきました。

この統合的な水管理モデルは水と食の安全のための計画につながるだけでなく、停滞した農村経済を再生し、農村の生計維持と生態系を調和させる基盤となります。 現在、今まで以上に、開発援助が土地に根ざした、コミュニティー主導の、自然を活用した解決策を促すことが重要です。そのようなイニシアチブは将来の世代に希望をもたらす変革の代表的なものになるでしょう。