ウクライナにおける人道、開発、平和構築の連携

UNDP危機局 国事務所サポート管理チーム プログラム専門官 ヨーロッパ・中央アジア主担当 桑田 弘史

2024年2月6日
1月7日キーウ、UNDPがウクライナエネルギー省および国際協力機構(JICA)とともに開催した供与式。(本人写真右端)

2022年の7月以降6回目のウクライナへのSURGEミッションを終え、今ポーランドのジェシュフ空港にて本記事を書き上げています。 2022年にロシアがウクライナに侵攻してから2月で2年になります。戦争が丸1年を迎えた昨年の時点で、国連の報告書Rapid Damage Needs Assessment (RDNA 2)は、ウクライナの直接被害が1,350億米ドル以上に達し、住宅、輸送、エネルギー施設等の主要インフラに甚大な被害があったことを伝えました。2023年2月24日時点での復興・復旧ニーズは、約4,110億米ドルとも言われています。この状況で、最も苦しんでいるのはウクライナの人々であり、私が所属する国連開発計画(UNDP)は、この未曾有の危機で被害を受ける人々に手を差し伸べ、政府への支援も行っています。人道・開発・平和の連携のアプローチのもと、人道支援と並行して行われる早期の復興と再建に力をいれてきました。

例えば、私がこれまで6回のSURGEミッションで計画と実施をサポートしてきた日本政府拠出のプロジェクト「戦争による多次元的な危機への対応を通したウクライナ内外の人間の安全保障の推進」(横井水穂プロジェクトマネージャー)は9,490万米ドルという比較的大きな予算で国の優先セクター(エネルギー施設の緊急復旧、地雷対策、がれき撤去、腐敗防止、人権保護)を総合的に支援し、差し迫ったニーズに対応するだけでなく、早期復興の足掛けとなる支援です。

2022年の冬のロシアのエネルギー施設への集中攻撃により、国家の発電能力が半分以上も低下し、約93%のウクライナの人々が停電により光も暖房もない極寒の冬を過ごさざるをえませんでした。そのような中、このプロジェクトはエネルギー施設の緊急復旧支援を通じ、国民500万人へ安定した電力を供給すべくガスタービン発電機や変圧施設等の供与を行ってきました。これら支援を含めUNDPウクライナは、供与された設備が本来の機能を果たすだけでなく、国家のエネルギー部門を活性化し、より環境に優しい分散型エネルギーインフラの基礎を築き、持続可能な発展の追求に寄与しようと働きかけています。

UNDP deliver equipment to secure power supply for over 5.5 million Ukrainians

UNDPがウクライナエネルギー省およびJICAとともに開催した供与式には上川外務大臣が出席。

Photo: Kseniia Nevenchenko / UNDP Ukraine

また、地雷対策、がれき撤去の分野では、戦闘により地雷やクラスター爆弾その他の爆発物が広範囲で用いられ、建物の破壊で急増した瓦礫、崩壊の危険がある建物、アスベスト等汚染が広がり、住人に対する危険、健康被害を引き起こすのみでなく、政府や国際機関が基本的サービスを提供する妨げにもなっています。このような中、プロジェクトでは、ウクライナにおける国連の地雷対策を調整する主導機関であるUNDPが、ウクライナ国家非常事態庁(SESU)やその他のパートナー機関と協力し、地雷および不発弾の処理を進めています。特に、瓦礫撤去作業との関連で、作業前に対象地域において地雷や不発弾が紛れ込んでいないかを調査し、瓦礫撤去作業を進めます。これまで、キーウ州の381棟の建物の解体を含め、440箇所で瓦礫の撤去を行い、約114,000トンを超える瓦礫を撤去しました。瓦礫の数が膨大であることから、引き続き緊急を要する瓦礫撤去を行いつつ、地方行政が各自治体で瓦礫撤去を進められるよう関係機関の能力強化も同時並行に進めています。これにより全国で地雷除去、瓦礫撤去が進み復興が進むよう支援し続けます。

以上のように、UNDPはウクライナの人道、開発、平和構築の連携のもと、人々と政府を支援し、緊急のニーズへの対応が長期的な目標に確実に繋がるよう復興に取り組んでいます。また、それら復興のための活動が、持続可能な開発目標の達成に寄与するよう支援し続けます。


著者:桑田弘史
UNDP危機局国事務所サポート管理チームプログラム専門官ヨーロッパ・中央アジア主担当、ニューヨーク

大阪府生まれ。2007年よりNGO、JICA、国連機関にて、ニューヨーク、ロンドン、ウクライナ、イラク、スーダン、南スーダン、バングラデシュ、ブータン等計8か国で、人道、開発、平和構築の分野で勤務。UNDPバングラデシュ地方分権ガバナンス・平和構築担当プログラムオフィサー、UNOPSスーダンプロジェクト調整官、国連ブータン国連常駐調整官特別補佐官、UNICEF・UNDP南スーダン資金調達・パートナーシップ専門官、UNDP危機局コロナ危機対応調整官を歴任。2022年10月より現職。 


本記事は「グローバル国際機関日本人職員会だより第17号」より転載。